ギャルな妹×オタクで鬱休職中の兄=ハートフルすぎる物語。「罪悪感とかいらない」妹の言葉が沁みる『小金井兄妹の休息』【書評】

マンガ

PR 公開日:2026/3/25

小金井兄妹の休息
『小金井兄妹の休息』(菅原亮きん/双葉社)

 ギャル文化が再興して久しい昨今、「ギャルはオタクに優しい」言説をよく聞く。確かにギャルは個性を尊重する文化。“熱中する何かを持っている人”をオタクとするならば、ギャルとオタクの相性は良いように思う。『小金井兄妹の休息』(菅原亮きん/双葉社)はそんなギャル×オタク、オタクな兄とギャルな妹が一緒に暮らす物語。そして相手を思うとは何か、信じるとは何かを教えてくれるハートフルなストーリーだ。

 兄・新は鬱になり休職2か月目。花が働きに行っている間にカレーを作り、「こんなにも毎日何もしないのは正直さすがに罪悪感でさ」と話す。すると花は喜んでカレーを食べつつ「罪悪感とかいらないから」と一言。“今はただやりたいことだけやること、何もしたくない時は「何もしない」をするように”と明るく伝える。

 そして花はそのついでかのように「死にたくなっても本当に死ぬのはナシだかんね!」と続けるのだ。新が部屋に入るのを、心配そうに見つめる花。家から出られなくなった兄が唯一毎日関わるのが自分とあっては、不安にならないはずがない。しかし花は心配な様子を見せず、明るく新に接する。

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 例えば新のように心の病で学校や会社に行けなくなった子どもや兄弟がいるとする。見守る側からすると「学校や会社に行けない」という事実だけでなく、「本人の未来はどうなるのか」という心配や不安もつきまとう。そこで「これからどうするつもりなの」と言葉にしてしまう人もいる。相手を心配しているからこその発言ではあるが、自分の不安をそのまま相手にぶつけるのは得てして相手のためにはならない。

 花は新を責めることはしない。その上、「外出に誘うのが本当に兄のプラスになるのか?」「今どんな気持ちなのか?」と自問自答を繰り返す。負担にならないように本人には聞かず、自分の中で考える。もちろん正解は相手によっても場合によっても違うので、花の行動が正解とは限らない。それでも本当に相手を思った行動を取るために、一度心の中で考えてみるこの姿勢は見習いたいと思った。

 もうひとつ印象的だったのが祖母とのエピソード。入院中の祖母を心配させないため、新は自分の状況を祖母に話していない。しかし祖母は新の様子がおかしいことに気づき、花に探りを入れる。もちろん花からしたら、新が喋っていないことを話すわけにはいかない。かといって祖母に嘘をつくわけにもいかない。悩んだ末で花は「私おばあちゃんに何かダサい理由でかくしごととかしないから」と答える。そして祖母はそれ以上詮索するのをやめるのだ。

 この言葉、花のギャルらしい矜持を感じられて個人的に本作で一番好きなセリフ。そしてこの言葉で一切の詮索をやめた祖母から、孫たちへの信頼が感じられた。親・祖父母側からすると子や孫について把握できない、知らないことがあるのは不安だ。それでも開示を強く要求しない、それが相手への信頼を示すことになる。信頼された側は「その信頼に応えよう」という気持ちになるのだと思う。

 しかし新の病状は一筋縄ではいかなそう&波乱の展開も迎えた第1巻。小金井兄妹の生活はこれからどうなるのか? 楽しみに待ちたい。

文=原智香

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