自身の感情が花となって咲く――神の寵愛を受けた少女と陸軍中尉の恋模様を描く恋愛ファンタジー【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/3/31

花贄様の初恋
花贄様の初恋(花贄様の初恋)

花贄様の初恋』(道草家守/文藝春秋)は、日本神話のエッセンスを盛り込んだ恋愛ファンタジー小説だ。

 自然豊かな花森村で生まれ育った鹿屋野家の次女・霜子は、神の寵愛を受け、人知を超えた能力を宿す「花贄」に選ばれたことで人生が一転する。その能力ゆえ周囲から恐れられ、孤独な日々を送る彼女のもとに、与り知らぬ縁談が舞い込む。相手の陸軍中尉・丹羽晴晃は、彼女の能力を恐れず、生活に寄り添う。霜子は彼の存在に戸惑いながらも、人々の心を蝕む花乱病の治療をしていくが……。

日本神話ベースの魅力的な設定が光る物語

 物語の全編にわたり、花が魅力的なモチーフとして描かれているのが印象に残った。主人公の霜子は、花贄の能力のひとつとして、自身の感情が花となって周囲に咲く。表情や言動を隠しても、花が咲くことで彼女の心のうちがわかってしまうことが、周囲との関係性に強く影響してくる。また、心の隙間に咲き、病の種となる「惑い花」の描写も美しい。ネガティブな感情や思考を養分として花が勝手に育ってしまうプロセスは、読者も自身の経験に重ねて共感できるところがあるだろう。

 花贄の設定は、日本神話がベースとなっている。日本でははるか昔から周囲の環境に八百万の神を見出し、自然の脅威と折り合いをつけるための信仰を続けてきた文化的背景がある。その背景に根差しながら、はかなくも神々しい花贄という存在をつくりあげたところが素晴らしい。近代化が進む時代の中で、忘れ去られていく信仰心や伝統。そこに当事者として直面する花贄の葛藤も、本作の見どころである。

花贄が負った宿命を、二人なら乗り越えられるのか

 もちろん、恋愛小説としても存分に楽しめる。優しく善良な心を持ちながら孤独のさなかにある霜子と、何事にもまっすぐで誠実な晴晃。二人の関係性は、花贄であるがゆえの困難に立ち向かっていくなかで、少しずつ変わっていく。しかし惹かれ合う二人の間には、ある“呪い”が立ちはだかっていた……。「相思相愛なのに成就しづらい恋愛」というものは、読者をたまらなくやきもきさせ、同時にわくわくもさせる。

 また、本作に明確な時代を伝える表記はないが、おそらく大正時代の日本が舞台となっている。当時は男尊女卑の思想が根強く、女性は飾られる“花”として品定めされることも多かっただろう。それが心に惑い花を咲かせる要因の一端となっているエピソードもいくつかあり、社会の“当たり前”によって限られた選択を迫られる人々の救いの物語という一面も持ち合わせているように思えた。

 大正ロマンを感じさせる世界観、日本神話をベースにした巧みな設定、そして読者の心をくすぐる恋愛ドラマ。さまざまな要素が織り交ぜられ、極上の和風恋愛ファンタジー小説として完成されているのが本作だ。恋愛小説が好きな人、とりわけ大正ロマンの世界観や日本神話のエッセンスに胸が高鳴る人には、ぜひ手にとっていただきたい。

文=宿木雪樹

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