深夜の読書は要注意! 飯テロ級の絶品パンと温かな謎解きに心満たされる、イケオジ工学部教授✕新米警官のコージーミステリー【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/5/13

教授のパン屋さん ふたりの秘密と焼きたて推理
教授のパン屋さん ふたりの秘密と焼きたて推理(近江泉美 / ポプラ社)

 ページを開くたびに、こんがり焼けた生地と芳醇なバターの香りがほわっと漂ってくるようだ。「教授のパン屋さん」シリーズ(ポプラ社)は、パン好きにはたまらない日常ミステリー。著者は、ドS王子系男子×女子高生が謎を解く「オーダーは探偵に」シリーズ(KADOKAWA)でおなじみの近江泉美さん。今回のシリーズでは、パンへの愛が深すぎる大学教授と新米警察官という異色のタッグが、さまざまな謎に挑んでいく。しかも、第1弾『教授のパン屋さん ベーカリーエウレカの謎解きレシピ』に続く新刊『教授のパン屋さん ふたりの秘密と焼きたて推理』(ポプラ社)では、ふたりの軽妙な掛け合いや鮮やかな謎解きがパワーアップ。札幌を舞台に、4つの謎がひもとかれる。

 かつて祖母がパン屋を営んでおり、今もパンの食べ歩きを趣味とする福丸あさひは、交番勤務の新人警察官。ある日、彼は噂の移動式パン屋〈ベーカリー エウレカ〉に遭遇する。出店場所も営業時間も非公開、そんな神出鬼没の幻のベーカリーを営むのは、三つ揃いのスーツを着た英国紳士風のイケオジ・亘理一二三。聞けば、彼は大学の工学部教授だが、パンを愛するあまり副業でパン屋を営んでいるらしい。だが、舌の肥えたあさひからすれば、教授が作るパンは「ふつう」の味。行く先々でさまざまな謎に巻き込まれるあさひは、パン作りのアドバイスと引き換えに、教授に謎を解き明かしてもらうが……。

 スイーツや料理と日常の謎を掛け合わせたミステリーは、今や定番ジャンルのひとつ。「教授のパン屋さん」シリーズも、その系譜を受け継ぐ作品と言える。だが、この作品の場合、教授の専門分野である“工学”をヒントに事件を解決するのが新しくも面白い。しかも、教授は事件現場に足を運ぶことはない。関係者からわずか3つの質問に答えてもらうだけで、さらっと謎を解いてしまうのだ。「え、こんなこと聞いて、事件に何の関係あるの?」と思うような質問から、もつれた糸をするすると解きほぐす手ぎわが実に見事で気持ちいい。

 前作では、町の厄介者が起こした傷害事件、物置小屋に出没するオバケの正体などを解明したが、本作で挑む4つの謎もバラエティに富んでいる。中学1年生の双子男子は、なぜある時からわざと同じ格好をして、授業を入れ替わったり、コンビニでトラブルを起こしたりするようになったのか。60代女性の家から、高価なアクセサリーや食器がなくなったのはなぜか。あさひの先輩巡査の妹が語る〈死体のクリアファイル〉とは、何を指しているのか。あさひが子どもの頃、死期が近い伯父の家に現れた不審な女性は何者か。そして、伯父が持っていた指輪が一晩で縮んだのはなぜなのか。教授は、これらの謎を深い知識と洞察力で解くだけでなく、工学的な考え方で未来に光をもたらしている。

 教授曰く、理学は真理の追究=〈WHY〉を探究する学問、そして工学は理学で得た情報を応用して新たなものを創造し、人々の〈WANT〉を叶える学問だという。例えば、第1話で双子男子がなぜおかしな行動を取るのかがわかると、教授は双子の困り事を解決するために工学的な手法を提示する。単に専門的な知識を振りかざして謎を一刀両断するのではなく、人々に寄り添い、体温が感じられる解決策を提案するからこそ、読後感もほっこり温かい。しかも、今回収録された4編は、いずれも家族の機微に触れている。あさひ自身の家族をめぐるエピソードもあり、その成長にも胸が熱くなる。

 と、ここまで物語の核になる部分だけを伝えてきたが、他にも読みどころは盛りだくさん。謎解きにはパンの蘊蓄も絡んでいて、その描写がまたおいしそうなことこの上ない。リベイクしたバターじゅわじゅわのクロワッサン、大粒の甘納豆がごろっと入った豆パン、クリームチーズたっぷりのきゅうりのサンドイッチ。読み進めるうちにパン欲が爆発するので、寝る前に読むのは避けたほうがいいかもしれない。さらに、舞台となる札幌の豆知識、教授の暴走、あさひのどうかしている私服センスなど、3色パン、いや5色パンのようにかじるたびにいろんな味を楽しめる。ほかほか温かく、それでいてひねりの利いたコージーミステリーを求める方には、ぜひおすすめしたいシリーズだ。

文=野本由起

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