【家康、絶体絶命】人生最大のピンチ「伊賀越え」を救った7人の忍び! まるで映画のような極上の歴史アクション【書評】
PR 公開日:2026/5/8

直木賞受賞作家が描く『家康と七人の忍び』(佐藤賢一/中央公論新社)は、忍びの戦いを通し「神君伊賀越え」を120%楽しませてくれる、アクション満載の歴史小説だ。
「神君伊賀越え」とは、「本能寺の変」で織田信長が討たれた際、わずかな家臣と堺(大阪)にいた家康が、さまざまなピンチを乗り越え領地の三河(愛知)へ帰還したという「家康人生トップ3」に入るであろう大事件である。
安土城に潜入した「忍び」の狙いは…
物語は天正10年(1582)5月11日から始まる。本能寺の変が起こる、少し前。信長の居城・安土城に一人の忍びが潜入した。
彼の名前は山一(やまいち)。家康に仕える忍びの一人だ。信長から安土に招待されていた家康は、自分が騙し討ちされることがないかを確認するため、忍びを放っていた。
結果、山一は信長に害意がないことを確かめるも、明智光秀によって見つかってしまう。だが華麗な忍術により「大逃走劇」を繰り広げ帰還。自分らを束ねる服部平太夫(はっとり・へいだゆう)に報告する。
そのおかげで家康一行は安心して安土城に赴き信長の饗応を受け、物見遊山として堺にまで足を延ばすことに。
しかしこの判断が人生最大の窮地に陥るきっかけになろうとは。この時は誰一人、思いも寄らなかったのである……。
「本能寺の変」が勃発! 家康一行の危機を陰から支える「7人の忍び」
家康が堺に居宿している際、明智光秀による信長への謀反「本能寺の変」が起き、世情は一変してしまう。
家康の立場は「信長の同盟者」だ。京にいる明智軍は当然、家康を敵だとみなしているだけではなく、信長という絶対的な権力者がいなくなったことで、これまで彼が敷いたあらゆるルールが、全て無効になってしまうという事態に。
そんな無法地帯の中、「旅行先という慣れない土地」に、わずか30名ほどの家臣で滞在していた家康。領国に帰ろうにも、京には明智軍がいるため、険しい山道を越えて行かねばならない。そこには家康の命を狙う落ち武者狩りの民や、他の武将の忍びなどもいる。
その危機的な道中を陰から支えたのが、人間離れした業(わざ)を持つ7人の忍びだ。
城の潜入を得意とするリーダー格の山一(やまいち)。美貌の“くのいち”二女(かずめ)。伝令では右に出るものがいない俊足の茂三(しげみつ)。変装の名人である五瓶(ごへい)。泳ぎを得意とする魚六(うおろく)。格闘に長けた弥七(やしち)。そして彼らを束ねる上忍の服部平太夫。
はてさて、この7人の活躍により、家康は無事に領国へと帰還できるのか? だが忍びたちの諜報により「本能寺の変」の裏には、更なる権謀術数があったことが分かり……というのが、あらすじである。
史実を知っていてもハラハラできる、作品の吸引力
本作、まるでワンカット撮影の映画を観ているような臨場感に溢れていた。
「本能寺の変」が起こることも、家康がこれから大ピンチに陥り伊賀越えを行うことも、歴史好き読者ならば既に分かっている。なのに、「次どうなる??」「家康大丈夫なのか???」と、ハラハラしながら読んでしまう吸引力が本作にはあった。
また7人もメイン級の登場人物が出て来るわけだが、それぞれに見劣りしない魅力が感じられたのもよかった。各々得意分野があり、性格はもちろん「想い」や「経歴」も違うことから、全員が適材適所で活躍していたし、人間らしい一面が垣間見られる展開もあって非常に深みを感じられた。
家康のキャラクターもいい。実直で家臣想い。少し直情的で抜けているところもあるが、意見を聞き入れる素直さもある。この家康のまっすぐさと、「相手の出方の裏を読む」騙し合いをする、忍び同士の深謀遠慮の戦いとの対比も面白く読ませてもらった。
家康の大ピンチにハラハラと胸を躍らせ、忍びたちの「流儀」に酔いしれてほしい一作。ぜひご一読あれ。
文=雨野裾
