中国マフィアに密輸した拳銃を見せつけられたこともある? 山下智久主演 映画「正直不動産」の原案者に取材の裏側を聞いてみた【夏原武 インタビュー】
更新日:2026/5/15
『正直不動産』が映画になって帰ってくる! 主演の山下智久さんはじめ、個性豊かな面々が繰り広げる世界にはファンが多く、よりスケールアップした本作を楽しみにしている方は多いだろう。そもそも『正直不動産』はどうやって生まれたのか? このたび映画公開を記念して原案者の夏原 武さんにお話をうかがった。

●お金の話には人間の本音が出るから面白い
――漫画の連載がどのように始まったか覚えていらっしゃいますか?
夏原武さん(以下、夏原):以前、『クロサギ』(原案担当)で一緒だった編集者(ビッグコミック田中潤氏)とまた何かやろうという話になって。やはりお金の話は人間の本音が出て面白いので、それを「不動産」でやることにしたんです。人は誰でも人生でなにかしら不動産には関わるため身近だし、不動産業界には表からではわからない裏の常識がいろいろありますから。基本的には業界の闇を告発したり啓蒙したりという気は全くなくて、あくまでもエンターテインメントを作ろうとした。その意味でも「ネタ」がすごく多い業界です。
――不動産業界には「千三つ」(「千の言葉の中に真実はたった3つ」の意)という言葉があるとか、そうした知識は以前からご存じだったんですか。
夏原:そうですね。ルポライターになる前にそうした世界に触れることがあったので。いわゆるバブルの地上げに若干関係があって、知らないと損をする業界だというのは知っていました。
――ルポライター/作家としても裏社会に切り込まれていますが、どういうきっかけで?
夏原:僕が物書きになったのは30歳ぐらいのときなんですが、当時『別冊宝島』の編集者から裏社会やアウトローものを書けないかという依頼があったんです。実は若い頃、僕は悪い人だったんで…。
――なぜルポライターに転身されたんですか?
夏原:やめてどうしようとなった時に、本が好きで文章を書くのも好きだったので業界新聞に行き、そこで知り合った編プロ(編集プロダクション)の社長に誘われて雑誌の編集者をやるようになったんです。そこで繋がった人から前歴のせいか「その辺(裏社会)、詳しいんじゃないの?」と声をかけられたのがきっかけですね。
表のお金の流れというのはわかりやすいですけど、裏のお金のことはわかりにくい。でも経済規模的にいうとそっちもかなり大きいわけです。調べていくと法則みたいなことも見えてきますし、「なるほど、こういうことでお金が流れているんだ」とわかってくるのも面白い。詐欺も多くて、それが『クロサギ』に繋がっていったわけです。不動産でいうと、バブルの時代は本当にお金の話がいろいろありましたね。「午前中に買った土地が午後に倍で売れる」とかとんでもない話も多くて、そういうお金の話は面白いし、ルポを書くと評判もいい。そんな感じでダラダラやってました。

●取材できっちりおさえた「現場感」が物語を支える
――漫画の場合はリアルのネタをエンタメにしていくわけですよね。その際に何か気を付けることはあるんでしょうか?
夏原:作品によっていろいろですが、たとえば『クロサギ』では「騙し返す」という部分を実行できないようにすることに気を遣いましたね。なにせ真似されたら困りますから。『正直不動産』の場合は、取材をちゃんとして「現場がどうなっているか」を知らせることを大事にしました。たとえば最近なら「みんなで大家さん」の事件(不動産小口化ファンドをめぐる投資トラブル事件)なんかがありますけど、ああいうのも実際の現場はどうだったのかが大事で。そんな大きな話じゃなくても実際の業者さんに話を聞いて、「こういう場合はどう対応するのか」「こんなトラブルがあったのは本当なのか」と探っていく。やっぱり取材が僕にとっては一番大切だし、僕が一番求められているところだと思います。
――「原案」という立場は、たとえば漫画の現場ではどのように関わるんですか?
夏原:「原作」の場合はキャラクターやストーリー、会話のセリフも全部作って、それを漫画家さんが書くことになりますが、「原案」の場合はネタを決める。それで「こういうネタだとこういう流れになる」「現場ではこう言っている」「現場の人はこういう喋り方をする」とかを伝えていきます。ドラマや映画化にあたっては脚本家が入っていますから、漫画を原作として使ってもらう場合は、自由にやってもらって「間違いがあったら訂正はしますよ」という感じです。
――山下智久さん演じる主人公・永瀬財地の「嘘をつけない」という設定は物語の最も大きな鍵ですが、この設定自体はどなたから出ましたか?
夏原:これは僕と編集者との中で出ましたね。まず「嘘をつかない主人公」と決めたんですが、嘘をつくかつかないかは自分で決めることなので、毎回嘘をつかないなんて無理ですよね。それでいっそのこと嘘をつけないことにしようと。ただそのギミックをどうするかを考えるのにものすごく時間がかかりました。今でも覚えていますが、夏のある日に電話で「日本人にわかりやすい祟りにしよう」と決めたんです。よく塀に鳥居が描いてあると祟りがありそうで立ち小便しにくいとかありますよね。そこ(永瀬の嘘がつけない設定)だけはそういう「大きな嘘」で描いて、中身は全部法律にのっとり事実関係もちゃんとしたものにする。それが決まったら一気に話が動き出しました。
――ドラマ、映画になると、永瀬の活躍で不動産業界が少しずつ変わる前向きな感じがよりします。ただ「正しさ」は大事ですが、それだけでは割り切れない部分は当然あって、そこもしっかり伝わりますね。
夏原:不動産業界を描いてはいますけど、これは基本的に営業パーソン、ビジネスパーソンの話なんですよね。商売をする上ではどうしても方便的に話を盛ったりする場面というのはあって、みんなやりたくてやってるわけじゃないし、全部本音で言えたらもっと楽なのにと思っていると思います。嘘ってたくさんついていくと澱のように溜まっていきますから、それで人間性が変わったりすることだってありますし。だったら思い切って本当のことだけやったらどうだというのがこの話なわけですが、ただ「本当のこと=業界的に正しいこと」といえるかどうかは別の話。商売はあくまでも営利ですし、特に不動産はノルマが厳しい世界ですから、本当のことばっかり言って仕事にならないんじゃ意味がない。だから悪徳系のミネルヴァ不動産や独立ブローカーの桐山のようないろんな立場のキャラクターを出すことで、本当のことを言っていれば勝てるわけでもないし、業界としてはむしろこっちの方が正しいということも描いていたりします。

●不動産業界も歓迎する『正直不動産』
――『正直不動産』には「知らなかったら損する知恵」がいっぱいで消費者的には助かりますが、不動産屋さんにとってはどうなんでしょう?
夏原:基本的には不動産業者さんは喜んでくれていますよ。未だにロクなことをやっていない業者はいい気分ではないかもしれませんが。実は業界漫画って反発をくらうことが多いんですが、この作品は例外的に業界が応援してくれていますね。やっぱりもっと良くなりたいという気持ちがあるんだと思います。どうしても「何かずるいことして儲けてるんじゃないか」みたいなイメージがついてまわる業界なので、「よく描いてくれた」という意見の方が多いです。
――映画では「農地転用」がテーマのひとつにありますが、ああいったネタはどうやって集めるんですか?
夏原:「こういう話がある」と聞かされて、面白そうだったら詳しい人に会って話を聞いて取材もして、これは作品として描くべきだろうと感じたらネタとして出します。作品が定着したことで向こうから情報が来るというか、報道もそんなにされない話が持ち込まれることも結構あります。不動産には投資の側面もあるのでどうしてもトラブルが起きやすく、投資専門の不動産会社に話を聞いたりすると驚くような話もいっぱい出てきます。
――夏原さんは裏の事情も汲んでくれるから取材された側も話しやすいのでは?
夏原:そうですね。どっちかというと僕も悪いことをしてそうな人に会いたいですし。フリーのブローカーやフルコミッションの営業マンとか、そういう方はやっぱり普通の人じゃないんでなかなか会うのが難しいですね。会えてもなかなか話をしてくれなかったり、引っ張り回されたり、高い飯食わされたり、高いお酒飲まれたり……しかもそうやって話を聞いても全部本当かどうかもわからないので、また別の人に裏取りをしなくちゃいけない。まあネタになればいいかとやってますが。
――そういう方たちと対面するって怖さみたいなものはないんですか?
夏原:それこそ『別冊宝島』をやっている頃は、脅しの電話がかかってきたりと怖い目に何度も遭いましたが最近は本当になくなりましたね。芝浦の倉庫に閉じ込められたこともあるし、中国マフィアを取材した時には、自分たちが密輸した拳銃を見せられたこともありました。ただし、そうそう殺されるようなことはないですよ(笑)。

●人付き合いには昔以上に警戒したほうがいい
――『正直不動産』の知識はリアルに使える予備知識ですが、今は暴対法で闇が奥に潜むようになっているので、いろんな面で予備知識が大事になってきているように思います。
夏原:昔は暴力団がいわゆる裏社会のヒエラルキーのトップにいましたが、そこの力が弱まって半グレも増えています。闇バイトもそうですが、彼らは組織だっていないので気がついたら巻き込まれることもある。みなさんも昔以上に警戒して人と付き合った方がいいと思います。詐欺もどんどん巧妙化して被害額も上がってきていますが、やはり今はSNSなんかのコミュニケーションツールが増えたことで、安易に人とくっつこうとする影響があるでしょう。
実はコロナの影響も大きくて、あれを機に人に会うことよりも繋がることが優先されるようになった感じもしますし、リモートが増えて映像の信頼度が上がりすぎてしまってもいます。昔は人を騙すには貸し別荘とかレンタルスペースを借りて、そこに高級車をリースしたり、札束や綺麗なお姉さんたちを用意したりとすごくお金がかかったんですよ。コロナ以降は映像なので、そこまでお金をかけなくても信じる人がすごく増えました。セミナーもすごく増えていますし、昔よりも警戒しないといけないと思います。場合によってはその気はなくても自分が加害者になってしまう可能性だってありますから。
不動産の場合はサイトを見てすぐに決めちゃう人が増えていますが、やっぱり住みたい町にある不動産屋さんにちゃんと足を運んだほうがいいですよ。地元の不動産屋さんは一番町のことを知っていますし、長年やっているから信頼を大事にしています。あと、いろんなことに共通ですが「契約書」はしっかり見たほうがいい。どんなことでも契約を交わした時点で「当事者」です。何かあっても被害者ではないので、そこを甘く見ている人が多いと思いますね。
――こうしたエンタメ映画を楽しみつつ、そのような危機意識はしっかり持ちたいですね。
夏原:僕はノンフィクションを手がけるため、嘘みたいなヒドイ話でも「本当です」で終わらせられますが、それをエンタメにしていく漫画家や脚本家の力は本当にすごいと思います。僕自身公開を楽しみにしていたので、多くの方に楽しんでいただきたいですね。
取材・文=荒井理恵、撮影=後藤利江

