テトリスのブロックが4つになった理由とは? 人の感性や身体をハックしてきたゲームの歴史など、本読みの達人たちが教える選りすぐりの新刊本

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2026/6/24

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年7月号からの転載です。

本読みの達人、ダ・ヴィンチBOOK Watchersがあらゆるジャンルの新刊本から選りすぐりの8冊をご紹介。あなたの気になる一冊はどれですか。

イラスト=千野エー

[読得指数]★★★★★
この本を読んで味わえる気分、およびオトクなポイント。

本間 悠
ほんま・はるか●1979年生まれ、佐賀市在住。書店店長。明林堂書店南佐賀店やうなぎBOOKSで勤務し、現在は佐賀之書店の店長を務める。バラエティ書店員として書評執筆やラジオパーソナリティなどマルチに活躍の幅を広げている。

『私たちはたしかに光ってたんだ』
『私たちはたしかに光ってたんだ』(金子玲介/文藝春秋) 1650円(税込)

2026年の大本命! ガルバン青春小説に爆泣き!

 元所属バンドの紅白出場を、ひとり職場のトイレで知る――完璧すぎるイントロにページを捲る手が止まらない。以降物語は、会計士として働く26歳の室瑞葉による現在パートと、高校生の彼女が全てを捧げたバンド《さなぎいぬ》の活動を追う過去パートが交互に描かれて、読者の情緒をぐわんぐわんと揺さぶってくる。

 とにかく読んでほしいのが演奏シーン描写の凄まじさ。声が、楽器の音色が躍動し、文章とは思えぬグルーヴが生み出される。曲の進行と奏者の心情が絡んで波となり、その波に揉まれるような臨場感がたまらない。《さなぎいぬ》4人の会話も愛おしさが詰まっていて、きっとあなたも彼女たちのファンになってしまうだろう。これぞ会話劇の神・金子玲介の真骨頂だ。

 かつて夢を追い、今は別の道を歩むすべての人に、このエモさと、この光を感じてほしい!

 読まないのが勿体ない、青春バンド小説の大傑作ですよ!

文芸/小説

オリジナル曲聴きたい! 度
★★★★★

『ノーメイク鑑定士』
『ノーメイク鑑定士』(石田夏穂/中央公論新社) 1980円(税込)

ツッコミと笑いが止まらない! 令和の爆笑お仕事小説

「あなたの会社にノーメイクの女がいる。社会人として失礼だから注意するべきだ」時代錯誤も甚だしい取引先からの苦言を受け、たった3人しかいない女子社員のうち誰がノーメイクなのかの調査を言い渡されたのが、そもそもノーメイクの主人公(女)っていう……設定だけで頬が緩んでしまう表題作「ノーメイク鑑定士」ほか、収録作はどれもユニークな切り口だ。登場人物も一癖ある人物ばかりだが、「そんなバカな」のユーモアに、リアリティが絶妙な分量でトッピングされていて、私たちの生活の延長にあるおかしみに気づかされる。

 残業をいとわない男性・大川と、働き方改革のために定時退社を促す“残業警察”との熱いバトルを描いた「我らがDNA」がお気に入り。いい年こいた大人たちが、どうでもいいことに心血を注ぐ、熱くなる。そんな姿がむちゃくちゃおかしく、愛おしいのかも知れない。

文芸/小説

カフェで読めないかも度
★★★★★

渡辺祐真
わたなべ・すけざね●1992年生まれ、東京都出身。2021年から文筆家、書評家、書評系You
Tuberとして活動。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。著書に『物語のカギ』がある。

『東京大学で教わるゲーム学入門』
『東京大学で教わるゲーム学入門』(吉田 寛/世界文化社) 1980円(税込)

約100年のゲームの歴史を駆け抜ける

 なぜ我々はゲームを遊んでしまうのだろう? 簡単だ、面白いからである。だが事はそう単純ではない。ゲーム制作者は、プレイヤーがつい遊んでしまうように、あの手この手で仕掛けを施している。ゲーム開発とは、人の感性や身体をハックしてきた歴史でもある。

 本書の著者は、東京大学でゲームを講じる美学者である。美学とは、人間の美意識や感性を研究する哲学の一分野。そんな美学とゲーム学の掛け合わせから、様々なゲーム作品がどのような技術や狙いによって生み出されたかが論じられる。その対象は、クレーンゲーム、インベーダー、そしてマリオやドラクエ、ポケモンGOなど幅広い。特に面白かったのは、テトリスのブロックが4つになった理由だ。大雑把に言えば、それ以上だと複雑すぎるし、それ以下だと簡単すぎるからなのだが、この検証過程にはビジネスのヒントも詰まっている。ゲームが好きな人もそうではない人も必読。

論考/ゲーム学

ゲームって総合芸術だなあ度
★★★★★

『古文と漢文─書き言葉の日本語史』
『古文と漢文─書き言葉の日本語史』(田中草大/ちくま新書) 1078円(税込)

古文っていったいなんなの?

 本書には、古文や漢文の読み方や魅力などは書かれていない。論じられるのは、いったい古文や漢文とは何かである。古文というと、僕らは『源氏物語』や『奥の細道』を連想するが、実はこの2作品の成立は700年ほど離れている。それなのに、同じ括りにされ、しかも高校で習う古文文法でどちらもある程度は読める。実はこれが古文たる所以だ。というのも、700年も経てば、当然言葉は変わるはずなのに、両作品は同じような言葉で書かれている。これが「古文」である。

「平安時代の文法で書かれた文章全般」=「古文」なのだ。しかも明治時代頃まで約1000年間の文章のほとんどが、これに該当する。したがって、文学作品だけではなく、手紙やレシピなど、多くの文章が古文、またはその親戚の漢文で書かれている。となると、古文・漢文を学ぶのは、文学鑑賞だけではなく、日本人たちが書いたあらゆる文章へアクセスする鍵なのである。

論考/文学

古文必要に少し賛成になる度
★★★★★

前田裕太
まえだ・ゆうた●1992年生まれ、神奈川県出身。芸人。高岸宏行とともにお笑いコンビ・ティモンディを結成。数々のバラエティ番組に出演し活躍。著書に『自意識のラストダンス』がある。

『どうせ死ぬなら北極で』
『どうせ死ぬなら北極で』(角幡唯介/小学館) 1760円(税込)

北極を旅する冒険家による、非日常的エッセイ

 とんでもないエッセイだった。

 著者は北極で旅をする活動をしていて、その冒険を記しているのだが、常に死の危険と隣り合わせ。当たり前のように死にかけるし、人生が終わった、と思う瞬間があまりにも多く来る。旅の途中でアザラシやウサギを当然のように狩って食べるし、20頭ほどのオオカミに追われ囲まれたりと波瀾万丈な内容である。

 命の危機を経験しようが北極の旅を続ける著者の姿に読む手が止まらない。何故そんなリスクを取ってまで彼は冒険を続けるのだろうか。

 それは読んでいると自然と分かる。

 単に、旅が楽しいのだ。命の危機を度外視できるほどに。

 こっちまで楽しい気分になるほど、旅の内容は刺激と喜びに満ちている。まるで自分も氷河の上を一緒に旅しているかのような気分にもなれる本書を是非手に取ってもらいたい。

文芸/エッセイ

クレイジーエッセイ度
★★★★★

『いくつになっても頭はよくなる』
『いくつになっても頭はよくなる』(リチャード・レスタック:著 牛原眞弓:訳/サンマーク出版) 2090円(税込)

最新科学による脳の構造とその鍛え方特集

 本書は皆が一生付き合っていく脳という臓器に対して今まで十数冊執筆してきた研究者による、脳のトレーニングについて書かれた一冊である。脳を構成する成分から、脳内の作りまで図説を交えて解説しているため分かり易く理解しやすい。

 そして、日頃から鍛えるべき脳の領域と、それに対してどんなドリルを行えば意図する領域を鍛えることができるのか、記されている。

 記憶のメカニズムと、誰でも簡単にできる短期記憶の力を育てるアプローチを知ることができるため、テスト前の学生にもお勧めしたい。

 私は、不安やストレスを感じた際の脳の動きとその対処法について書かれた部分がとても興味深く感じた。

 精神に影響する呼吸法や、ゆっくりと文字を読む読書をすること。それが脳に如何なる影響を与えるかを知れたのは、今後の財産になった、と感じた一冊である。

実用書/脳科学

脳トレの種類の多さ度
★★★★★

村井理子
むらい・りこ●1970年生まれ、静岡県出身。翻訳家、エッセイスト。著書に『村井さんちの生活』『兄の終い』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。訳書としては『ゼロからトースターを作ってみた結果』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』ほか。

『13歳からの戦争学』
『13歳からの戦争学』(小川和久/アスコム) 1870円(税込)

実際のところ、世界はどうなの?

 変わり続ける世界情勢に、ついていけているようで、実際についていけているのかどうか、甚だ疑問に思う今日この頃。毎日ニュースを読んでいても、あまりの情報量に徐々に頭が混乱してしまい、「結局、ホルムズ海峡はどうなってるんだった?」と、首を捻ることになる。スーパーの棚の商品が徐々に値上がりし、焦る気持ちはあるものの、山のような情報を前に唖然とするばかり。そんな時、「学生のときに使った教科書があればなあ」と思うのだった。思い返してみれば、教科書は情報が整理され、わかりやすかった。本書は「13歳からの」、とタイトルにあるが、決して子ども向け(だけ)の一冊ではない。まるで教科書のように、情報がきちんと整理され、まとめられている。なるほど、戦争というのはこのように始まり、そしてこのように展開していくのかと、改めてきちんと理解するために、頭が混乱してきた大人にもお勧めしたい。

ノンフィクション/世界情勢

世界情勢を理解できる度
★★★★★

『理不尽仕事論「クソが!!」と思った時に読む本』
『理不尽仕事論「クソが!!」と思った時に読む本』(坂井風太、ぐんぴぃ/文藝春秋) 1760円(税込)

理不尽もこれで解決!

 フリーランス生活を20年以上経験した私は、「クソが!!」と思う理不尽をこれまで何度も経験してきている。若かりし頃は数々の理不尽やパワハラに黙って耐えていたものの、最近は無表情で反撃する。年の功と言えばそれまで。しかし、現代の若き社会人は、そこまで耐える必要なんてない。人材育成のプロである坂井風太氏と、お笑い芸人ぐんぴぃ氏の掛け合い形式で進む文章はたいへん面白く、読みやすい。人生のサバイブ方法をリズムよく伝授してくれている。なんとなく生きづらい、会社の居心地が悪いという現代人には読んでみてほしい。個人的にたいへん興味深かったのは、「現代の病理:若年性ミッドエイジクライシス」の記述。現代の20代はSNSなどで40代の成功者による「人生のネタバレ」(タワマンなど、成功パターン)を浴び続けて人生を俯瞰してしまう。そこで著者の書いた「冷笑に負けるな」という言葉がとても刺さるのだった。

ノンフィクション/仕事論

挑戦しつづけよう度
★★★★★

<第15回に続く>

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ダ・ヴィンチ 2026年7月号

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