知念実希人 初の異世界転生ラノベは、残酷だが泣ける? 魔物たちが襲ってくる世界で、美しいツンデレのエルフと出会い…『偽世界転生』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/7/30

偽世界転生(1)(Mノベルス)
偽世界転生(1)(Mノベルス)(知念実希人/双葉社)

 リアルすぎやしないか。少年が感じる恐怖も、痛みも、混乱も、あまりにも生々しい。見ず知らずの世界に降り立った戸惑いと苦しみ、ようやく心を通わせることができた相手に抱く温かな感情、そして、容赦なく突きつけられる残酷な運命。そのすべてが胸に迫り、鋭く突き刺さってくる。

 ああ、こんなにリアルな異世界転生ものは見たことがない。こんなにも感情移入させられるだなんて――。そう感じずにはいられなかったのが、『偽世界転生(1)(Mノベルス)』(知念実希人/双葉社)。大人気ミステリー作家・知念実希人が挑む、初めての異世界転生ライトノベルだ。

 知念実希人といえば、本屋大賞ノミネート作『ムゲンのi』や、アニメ&ドラマ化で話題の本格医療ミステリー「天久鷹央」シリーズなど、多くの人気作で知られる作家だ。では、緻密な謎解きと医療知識を織り交ぜたミステリーで、多くの読者を魅了してきた知念が描く異世界転生ラノベとは、どのような作品なのか。期待に胸を膨らませながらページをめくれば、そこに待ち受けていたのは衝撃の連続。何なんだ、この世界は。少年とともに私たちも混乱せずにはいられない。

コールドスリープから目覚めたら、そこは謎に満ちた“異世界”

 舞台は、20XX年の日本。全身の筋肉や脳細胞が萎縮する不治の病に冒された16歳の少年・東都規(トキ)は、治療薬が完成する未来を信じ、5年間のコールドスリープに入った。世界最高の科学者たちが完璧に準備を整えたものの、この取り組みは世界初。トキは「冬眠期間はちょっと昼寝をするような感覚で、目が覚めたら五年が経っている」と聞かされていた。だが、トキが目を覚ますと、そこは異世界。大小二つの月が浮かぶこの世界では、邪神が降り立ち、血の眷属と呼ばれる魔物たちが人々を襲っているという災いに満ちていた。混乱しながら森をさまようトキは、美しいエルフの少女・レミナと出会い、複数の首と頭部を持つ巨大な怪物を打ち倒すことに成功する。やがて、トキはエルフ族から、この地を災いから救う“伝説の聖勇”として歓待され、仲間たちとともに旅に出ることになるのだが……。

王道のライトノベル要素と、容赦ない残酷さ

 エルフ族や天使族、吸血族、獣人族といった多様な種族、不気味な怪物、世にも恐ろしい邪神……。本作には、異世界転生ファンタジーらしい王道の要素が詰まっている。さらに特徴的なのは、この世界では基本的に、敵と戦う役目を女性が担っていること。そんな中で、トキだけは例外として邪神の眷属に立ち向かう。そのため、彼のそばにはいつも、ともに戦う魅力的な少女たちがいる。最初に出会うレミナはツンデレ、その姉はグラマラスで心優しく、さらには別種族のヤンデレ少女まで現れる。少女たちとの距離感にドキッとさせられる場面もあり、ライトノベルらしいサービス的展開も。いかにも楽しげな異世界冒険譚が始まりそうな予感がする。

「何なんだ、その羨ましい世界は。可愛い女の子ばかりの世界で勇者として扱われるだなんて」と、もしかしたら思うかもしれない。だが、トキを待ち受けているのは、想像をはるかに超える悲劇と苦痛だ。トキ自身も、最初は日本語を話す人々、ゲームのような設定、現実離れした状況を前に、自分は元の世界で開発が進んでいたフルダイブVRゲームの世界に入り込んだのだと考えていた。ここがゲームなら、怖がる必要はない。そう思い、この世界を楽しもうとしていた。だが、トキの目の前では多くの血が流れ、命が失われ、彼自身も途方もない痛みにさらされていく。読者である私たちもまた、その苦悩を追体験することになる。ファンタジーの世界でありながら、そこに生きる人々の恐怖や絶望、判断の重さが生々しく迫ってくる。だからこそ、トキの葛藤に強く感情移入させられる。そして、危機が過ぎ去ったとき、誰かと心を通わせたとき、涙が流れそうになるほど胸がいっぱいになるのだ。

この世界の正体は? 知念作品らしい緻密な設定と大きな謎

 緻密に作り込まれた物語は、知念実希人だからこそ生み出せるものだといえるだろう。何より、この物語で一番気になるのは、「この世界は一体何なのか」という謎だ。ここは本当に異世界なのか。トキは本当に転生したのか。それとも、誰かが作り上げたゲームの世界をさまよっているだけなのか。目の前で流れる血も、交わした言葉も、芽生えた感情も、すべて偽物なのか。読み進めるほどに疑問は深まり、トキとともにこの世界の真実を確かめずにはいられなくなる。

 第2巻は2027年に刊行予定だというが、本作を読めば、すぐに続きが気になってたまらなくなる。果たしてこの世界の奥には、どんな真相が眠っているのか。痛みも、謎も、葛藤もすべて抱えながら進んでいく、今までにないリアルな異世界転生ラノベ。その幕開けをぜひともあなたも見届けてほしい。

文=アサトーミナミ

偽世界転生(ノベル)1巻 (Mノベルス)