濱口竜介監督が語る映画『急に具合が悪くなる』映画化への葛藤と原作への想い「どうすればいいかわからないけれど、絶対に映画にしたいと思った」

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公開日:2026/7/4

■映像化できなかった一文から汲み取った、原作に流れる「ユーモア」

――原作を読んで、特に心を打たれたところはありますか?

濱口 数えきれないほどありますが……映画にできなかったところでいうと、磯野さんが「これから意識的に間隙(カンゲキ)をつくります」と書いているところ。読んでいただかないと、どういうことかわからないでしょうが、これは絶対に映像にできないな、と思った部分です(笑)。磯野さんは2人の会話が硬直しそうな時に、一体どうすれば崩せるのか、常に試行錯誤していたように思えます。でも、暴力的にではなく、あくまでユーモアを伴ったズラしを常に実践されていて、そのことが宮野さんの奥深い部分まで開いていったように思えます。こうした態度が一文一文に表れている。学者同士が対話していること以上の、人間として互いを受け止め合っていこうとする意志は、どうにか映画のなかにも落とし込みたいものだと思っていました。二人のあいだに生じているユーモアや軽やかさもまた、決して忘れてはいけない、と。

――二人がメッセージのやりとりをするシーンで「なにその写真(笑)」みたいなやりとりもありました。他愛なさが劇中で描かれていることに、なぜだか観ていてほっとしたのですが、それも原作からインスピレーションを得たのでしょうか。

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濱口 そうですね。磯野さんも、書簡を離れて宮野さんとLINEをしていたようなので、そういう時間も当然あっただろうと。かなり他愛ないことをおしゃべりしていた、その時間が素地となってこの往復書簡を可能としている、ということも書かれていましたし。大事なことをしゃべれる相手がいることは大切だけど、大事なことだけをしゃべる関係は、けっこう、息苦しい。大事なこともそうじゃないことも交互に話せるような、そういう関係は心がけていた気がします。

――建付けは確かに異なりますが、映画を観たあと、改めて書籍を読んで、「ああ、これは確かに原作だ」と感じました。濱口さんは、本当に大切に、書籍を読みこんで本質を汲みとろうとされたのだな、と。

濱口 制作にあたって、人類学の本もいろいろと読んだのですが、リサーチの結果をドキュメントにまとめることには常にあやうさがあります。そのまま描いているつもりでも、必ずどこかフィクションになってしまうし、誰かの暮らしや人生を研究業績にしてしまう罪深さもある。人類学者の方々に共通しているこういう「原罪」的な感覚は、映画づくりにもとても似ている、と感じました。その暴力的な側面をどうすれば弱めることができるか、というのは、この本に限らず、映画づくりに携わるうえでの課題だと感じています。忘れちゃいけないのは、元になっている人たちに対して、本当に敬意を払ったうえで、一方で自分にとって大事なのはこれなんだと伝えること。率直に柔らかくコミュニケーションし続けることなのだと、人類学の本から学んだことも大きいと思います。

――そのうえで、完成した今、どんなお気持ちですか。

濱口 確かにテキストそのものはほとんど反映していないのですが、それにもかかわらず「なんだかわからないけど同じことを語っている気がする」と読者や観客に思ってもらえるようにする、ということは常に意識していました。映画の後にこの本を読む人にとって、映画がサブテキストみたいに機能するとよいなとも願っています。本当に数えきれないほど読み返したのですが、ここで語られていることは映画ではあのシーンになっているのか、ということを、自分でも改めて感じたりしますしね。常に、テキストを参照しながらつくっていたわけではありません。だけど、映画はまさにこの本から生まれているのだな、と僕自身が、読むごとに本と出会い続けているような感覚です。同じように、映画と本の両方に触れてくださった方が「このテキストには、あのシーンには、こんなとらえかたがあるのか」と互いに行き来しながら、新たに出会い、発見をし続けてくれたら嬉しいですし、映画と本が主人公二人のような特別な関係であってくれたら、それ以上、幸せなことはありません。

■大ヒット上映中!
『急に具合が悪くなる』
出演:ヴィルジニー・エフィラ 岡本多緒 長塚京三 黒崎煌代
監督:濱口竜介
原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)
製作:Cinéfrance Studios, オフィス・シロウズ, ビターズ・エンド, Heimatfilm, Tarantula
配給:ビターズ・エンド
提供:Soudain JPN Partners フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作 

© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

公式HP:https://www.bitters.co.jp/soudain/
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取材・文:立花もも
写真:種子貴之

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