『惑星のさみだれ』水上悟志原作。少女の姿をした男とセーラー服の成人女性が旅する異世界ファンタジー『クライマックスネクロマンス』【書評】

マンガ

PR 公開日:2026/7/4

クライマックスネクロマンス 1
クライマックスネクロマンス 1(水上悟志:原作・ネーム、瀬戸一里:作画/少年画報社))

 魔術師と兵士たちがアンデッド軍団と激闘を繰り広げる戦場に現れたのは、場違いなセーラー服を着た25歳女性だった――。

 文字にするとインパクトが強すぎる召喚シーンから始まる異世界ファンタジーコミック『クライマックスネクロマンス』(水上悟志:原作・ネーム、瀬戸一里:作画/少年画報社)である。死霊を従えて戦う死霊魔術師(ネクロマンサー)たちの戦いを描いた物語だ。

“命を狙い狙われる”二人が共に旅する異世界ファンタジー

 舞台は第8世界ラグランジュラ。そのダンジョンでは今まさに、史上最強のネクロマンサー・アズライラと、その宿敵「魔杯の巡教者」との、ネクロマンサー同士のラストバトルが始まっていた。

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 まさに物語のクライマックスのようなシチュエーションに、現代日本の自宅でふと妹のセーラー服を着ていた25歳の女性、神余イチカ(かなまり いちか)が現れる。セーラー服を着用したままである。

 イチカは女神アーシュラに導かれ、アズライラによって願いを叶える存在「マレビトガミ」として召喚されたのだ。そんな彼女には無尽の魔力が宿っており「魔杯の巡教者」をもたやすく倒すのだった。

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 ここに、人類の、そしてアズライラの“数百年”にも及ぶ悲願が成就した。めでたしめでたし――ではない。

 アズライラには悲願の他にやるべきことがもう一つあったのだ。それは「ネクロマンサーをこの世から一人残らず消す」こと。つまり、目の前にいる女神の眷族・イチカも倒さなければならない。しかし彼女は、魔力量だけなら人類最強クラスのはずのアズライラよりも遥か上であった。

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 そこでアズライラは「イチカを元の世界へ戻す秘密を探る」という名目で、彼女を倒す手段を見つけるための旅に出ようとした。その旅にはイチカも一緒に旅へ出ると譲らない。なぜなら彼女はこの世界に導いた女神アーシュラが妹のフタバであり、女神を探して会いたいからだ。

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「自分が生きる力の源は、選ぶ運命を楽しむ心」という女神の言葉を思い起こし、イチカは妹へ会いにいくことを選択する。かくして二人は旅を共にすることになる。不穏さを抱えた危ういバディ関係、彼らのキャラクターとかけあいも本作の魅力だ。

 イチカは、圧倒的な力を持ちながらどこか飄々としており「選ぶこと」を楽しめる軽い部分がある。なお物語の序盤では現代日本での人生についてはまだ語られていない。

 一方アズライラは、内側には強い執念を抱えているものの冷静で合理的であり、どこか達観した雰囲気を漂わせる。その理由については徐々に明らかになっていく。

 そして、本作の強烈なフックにもなっているのが“彼”の外見である。アズライラの見た目は小柄な美少女だが、中身は酒が好きな成人男性なのだ。このギャップの理由もまた1巻時点では明かされておらず興味を引かれる。

 味方も簡単に命を失うシリアスでハードな世界で、性格も対照的な、セーラー服の成人女性と、美少女の皮をかぶった男性(?)の楽しいかけあいは良い意味で浮いている。これをスパイスにして、勢いだけではない独特のリズムで物語は進んでいくのだ。

水上悟志が描くクライマックスから始まった“終わりの先”

 本作の原作者・水上悟志は、アニメ化された『惑星のさみだれ』(少年画報社)や『戦国妖狐』(マッグガーデン)をはじめ、アニメの原作とコミカライズも手掛けた『プラネット・ウィズ』(少年画報社)などで知られている。そんな水上氏が原作に加えて“ネーム”も描き、『惑星のさみだれスピンオフ その後のヒーロー』(少年画報社)を手掛けた、弟子である瀬戸一里とタッグを組んで制作しているのが本作だ。なお『惑星のさみだれ』にはイチカの苗字「神余」を名乗るキャラクターが登場する。この関係が作中で語られるのかは気になるところだ。

 勢いのある展開と熱量の高い台詞、シリアスとユーモアが同居する独特のテンポ感はファンならば「これぞ水上作品!」と言いたくなる読み味で、最初のページから見事なまでの“水上味”全開だと書いておきたい。

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 はたしてイチカは妹に会えるのか。そもそも会ってどうするのか。一方アズライラは、ネクロマンサーを世界から根絶させられるのか。そして救われたはずの世界で、二人の前に謎の敵が立ちふさがる。はたしてその正体とは……。

 本作はクライマックスから始まった。“ラスボス”を倒して終わるはずのストーリー。だが、そこには決着ではなく選択があったのだ。イチカとアズライラは自分の意思で運命を選び続けていく。二人の踏み出した終わりの先を、ぜひ読んでもらいたい。

文=古林恭

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