人間に戻りたい? 猫になった元社畜が気づいた、今の自分の居心地のよさ【書評】
公開日:2026/7/15

もし、あなたが、ある朝突然猫になってしまったとしたら、どうするだろうか。仕事も生活も、これまで通りにはいかない。人間だった頃にできていたことも、できなくなる。けれど、猫になったことで周囲に愛され、働き方まで少し楽になったとしたら、果たして「元に戻りたい」と思えるのだろうか。
『ブラック企業の社員が猫になって人生が変わった話(モフ田くんの場合)』(清水めりぃ/KADOKAWA)は、仕事に追われていた会社員・モフ田くんが、ある朝突然猫になってしまうところから始まるコミック。”猫化”という不思議な設定を通して、人間だった頃の働き方や周囲との関係が少しずつ変わっていくのが面白い。
ある時、同僚から「人に戻りたいとか思わないの?」と聞かれたモフ田くん。別に戻りたくないわけではない。けれど、人間に戻れる保証はなく、失敗すれば別の生き物になってしまうかもしれない。そう考えると、モフ田くんは簡単には決めきれない。モフ田くんは猫の身体がなんだかんだ気に入っているのだ。
だって、今のモフ田くんは、SNSで人気者。以前より無理をしすぎず働くことができているように見えるし、周囲からも大切にされている。言葉は話せるし、食事にも困っていない。人間だった頃よりできないことは増えたはずなのに、今のモフ田くんの方が、どこか肩の力を抜いて毎日を過ごしているようにも見える。
猫になったことは不便なはずなのに、その不便さの中で、モフ田くんは少し楽になっている。元に戻ることだけが幸せとは限らない。そんな姿にフフッと笑わされながらも、自分にとって心地いい働き方、生き方とは何なのかとつい考えさせられる。そしてやっぱり、少しだけモフ田くんの今がうらやましくなる。「私も猫になりたい」――そんな願望まで芽生えてくる作品だ。
文=アサトーミナミ
