幻のB案が映画のラストに採用? 大ヒットホラー作家・背筋が語る『口に関するアンケート』の裏話と新作『目が』の恐怖【背筋インタビュー】
更新日:2026/7/13
怖さとエンターテインメントの両立に心を砕いた

――本作には「視線」「神様」「功徳」「天国」という4つのエピソードが描かれています。そして読み進めていくと、それらのエピソードが少しずつつながっていく構成が非常に面白かったです。
背筋:実は「功徳」は宝島社から出ているショートホラーアンソロジーに寄せた掌編なんです。「神様のためにポイントを貯めている」という設定のホラーなんですが、すごく気に入っていて、いつか膨らませたいなと思っていました。だからこの掌編が『目が』の出発点ともいえます。そこから他のエピソードも生まれて、パズル的に組み合わせていきました。
最も心を砕いた点は、読者に対してどこまでわかりやすくするか、です。わかりやすすぎると怖さが減ってしまうし、でも、わからなければエンターテインメントとして成立しない。その塩梅が難しくて。なので、わかりやすいバージョンとわかりにくいバージョンとを書き分けて、担当編集者に読んでもらいました。話の筋は変わらないけど語り方を変えることで、最も怖いパターンはどれなのかを選び取っていったんです。
――緻密な計算のもとに成立した物語なんですね。結果、「天国」まで読み進めたときの衝撃は大きかったです。自分の中にこんな思い込みがあったのか、と。
背筋:ある程度は読者をミスリードしていくことを意識していたので、そんな風に驚いてもらえると嬉しいです。ネタバレになってしまうのではっきりとは言えませんが、たとえば、ある社会現象を目にしたとき、そこに関わっている人のことを、私たちは無意識に決めつけてしまうことがありますよね。本当はどんな事象にも二元論ではなくグラデーションがあるはずなのに。そんなことを思いながら書きました。
――『口に関するアンケート』ではラストにアンケートが収録されていて、それが恐怖をもたらすギミックとしての役割を果たしていました。本作でも最後にそういった仕掛けが施されています。
背筋:最初に少しお話ししたように、せっかく『口に関するアンケート』と同じ版元から出すならば、なにかしらのトンマナが揃っているほうがいいだろうと考えたんです。結果、今回も仕掛けを入れてみることにしました。それが読後のカタルシスにもつながってくる部分でもあるので、入れてよかったと思います。
映画版のラストには、幻のB案を採用してもらった

――ここからは『口に関するアンケート』の映画版についてうかがいたいんですが、完成した映画をご覧になっていかがでしたか?
背筋:率直に、あの清水崇監督に私の原作を使っていただけたんだなぁと感慨深い気持ちになりました。制作にあたっては非常に丁寧で、要所要所で意見交換もさせていただきました。とはいえ、意見が食い違うようなこともなく、終始穏やかな現場でした。
――映画版では原作とは少し異なるラストが待ち受けています。そのアイデアも意見交換の中から生まれたんですか?
背筋:それは私のほうからご提案させていただきました。実は、原作の『口に関するアンケート』には、幻のB案があって。小説の表現だとどうしてもわかりにくくなってしまうから採用はしなかったんですよ。で、清水監督と映画版のラストをどうするかお話するなかで、「実はこんなアイデアがあったんです」とお出ししたら、なんと脚本に落とし込んでくださって。結果的に、原作をすでに読んでいる方にも映画を楽しんでもらえるような作りになったので、よかったと思います。
――先ほど、『目が』でも複数のパターンを書いたと仰っていましたが、そんな風に何パターンも書くのはあまり苦ではない……?
背筋:いや、苦です(笑)。というか、そもそも書くこと自体が苦なんですよ。じゃあ、どうして何パターンも書き分けるのかというと、そのほうが担当編集者と意思疎通しやすいから。どこをどう直したらいいのかって、口頭で延々と話し合っていてもわかりにくいじゃないですか。最終的には、読んでみないとわからない、になりがち。なので、いくら苦とはいえ、もう書いちゃったほうが早いよな、と思ってしまうんです。
――映画が公開されて新刊も出て、背筋さんに対する期待がますます高まっていくと思いますが、プレッシャーのようなものは感じていますか?
背筋:そこはあまり感じていません。というのも、私は自分にあまり期待していないから。自己肯定感が低いというわけではなくて、別に自分を大層なものだと思っていないんですよね。多分、自分の出力は限られているので、期待を背負って頑張ったところで、まあ同じだろうなと。
ただ、一緒に作ってくれた方々がいるので、そういう方々に顔向けできるくらいの結果は出したい。その点ではプレッシャーを感じることはあります。売れてくれないと困るなぁって。でも、名誉欲とかは一切ないので、実力以上に評価されたくないですし、評価されたら困りますね。
――無理に背伸びするわけでもなく、自分にできることを粛々とやっていくというスタンスですね。最後に、次に準備しているものや今後書きたいものがあれば教えてください。
背筋:いくつかあるんですが、まず『目が』が成功したら、今度は「心臓」をモチーフにした作品を書いてみたいです。「口」「目」と続いたら、みなさん「鼻」や「耳」をイメージされると思うんですが、そこは裏切っていきたい。私、捻くれ者なんです。
それからいままさに書いている最中なのが、「天啓を受けてしまった人の話」です。その人がとんでもなく偉くなってしまう話を書いているんですけど、誰に話しても理解してもらえなくて(笑)。これも口で説明してもわかりにくいので、完成したら読んでもらえると嬉しいです。
取材・文=イガラシダイ 撮影=林ユバ
映画『口に関するアンケート』
公開:7月3日(金)
出演:板垣李光人、綱啓永、吉川愛、MOMONA(ME:I)、森愁斗(BUDDiiS)、西山智樹(TAGRIGHT)
柄本時生、中村獅童
監督:清水崇
原作:背筋『口に関するアンケート』(ポプラ社刊)
脚本:山浦雅大
配給:松竹
