トム・ブラウン布川ひろきのエッセイ連載「おもしろおかしくとんかつ駅伝」/ 第29回「コンビニ2」
公開日:2026/7/31

前回長らくやっていたコンビニバイトのことを書いたら、絞りだそうとしなくてもどんどん話が出てきました。今思うと、僕の人生の半分近くやっていたことなのに、何でもっと早く書いてなかったんだと思います。なので延長戦です。
前回、コンビニのことを書いて
「もっとこうしておけば良かったなぁ。」
25、6歳だったのでベタに
「あの頃は若かったなぁ。」
「あれは懐が浅すぎたなぁ。」
等と思い出し、42歳の今なら別のやり方をしてたなと思います。
毎日来る70代くらいのおばあちゃんがいました。いつもパンのコーナーを見て行くのですが、なぜか買うのはバナナだけとか飲み物だけとかだったりです。そんな動きが変だなと思い、ある日目を離さずに見ていたら売り物のパンをおばあちゃんの服の中にしまいました。
万引きです。
別の商品はレジで出して、パンは服から出しません。
「おばあちゃん。他に商品はない?」
と、聞きましたが。
「これだけ。」
と、言いました。
会計を済ませてドアの外に出たので、当時20代のバイト男がとても言いづらかったのですが追いかけて
「おばあちゃん。お会計していない商品ありますよね?」
「え? そんなもんないよ!」
シラをきっています。
「おばあちゃん服の中に何か入ってるんじゃない?」
「服の中に? ないよ! ほら!」
シャツの左の方を見せてきました。パンを入れたのは右でした。
「おばあちゃん。もう片方も見せて。」
「何でだよ。何もないよ。」
「何もないんですか。じゃあ、見せて下さい。」
「何もないのに何でだよ!」
「おばあちゃん。見せて下さい。」
すると、おばあちゃんが服の右の方を出して叫びました。
「あぁーー! そうだったわ! パンがここにあったの忘れてたわ! うっかりしてたわぁー! はい、これ持っていって。買うから!」
ドアは開いてたので、店内に響き渡るほど大きい声でした。遠目にコンビニのオーナーがいたので見ると、顔をバックヤードの方に動かして裏に連れていってというジェスチャーをしていました。オーナーからしたら何日も売上を取られていたので生活がかかっているし、それは正当な話です。
僕はおばあちゃんに話しました。
「おばあちゃん。申し訳ないけどそれはダメですよ。」
「何がだよ! ただ間違えただけなんだからしょうがないでしょ!」
「おばあちゃん。それはさすがに無理ですよ。ちょっと裏に来て下さい。」
「何で行かないといけないんだよ! この店は血も涙もないのか!」
「おばあちゃん。ここで話すと他のお客さんもいるので裏で話しましょう。」
「ふざけんなぁーーーーー!!! どうなってんだこの店はぁーーーー!!! おかしいよーーーー!!! みなさーーーん! この店おかしいよーーーー!!! おかしいよーーーー!!!」
店の入口のドアの前なので、店内に響き渡り外にも響き渡り大暴れしていました。連れて行こうとしても
「離せぇーーー!!!」
と、なります。
埒があかないです。
このやり取りがしばらく続いて
「こ・の・み・せ・は・おかしいよーーーー!!!!!!!」
と、今までで最大の声量と体を横に振りまくって駄々をこねてるような状態で言ってきました。
その時僕は「仕方ないか」と思い、最終手段だということでおばあちゃんの耳元に近づき小さな声でいいました。
「いいかげんにしな。あなた立場わかってるの?」
強い言葉で言うのはおばあちゃんですし避けていたのですが、25、6歳の僕では他のやり方が浮かばずこうしました。
すると、おばあちゃんは僕がさっきまで柔らかい口調で話してたのでかなり驚いた顔をして
「あ、あわゎ。」
と、いう口の形をして急激に静かになりました。
「行きましょう。」
と、声をかけたらすぐにバックヤードに行き、冷静に話し合い「もうしない」ということで警察は呼ばないことになり終わりました。
それからもおばあちゃんはよく来店していましたが、いつも元気がない感じだった気がします。
当時も何か自分の中でフガフガしていたのですが、この歳になってそれが何かわかりました。
「こんな晒し者みたいにせずにやれば良かったなぁ。」
ということだったんだと思います。
今ならドアを出た所でおばあちゃんの所に行って
「すいませんけど、シャツの中にお会計がすんでないパンを入れたのを見たので、一度バックヤードに来て下さい。」
等、すぐに何でか言って終わらせてあげます。
それを、刑事ドラマの犯人の詰め方の弱いバージョンみたいなことをして、嫌な思いをさせてしまったなぁ。と。
万引きをしたのは悪いことですが、辱しめを受けてもらう必要はないし、怖い思いをさせる必要もなかった気がします。
20年くらいたってやっと気付いたので、ここでコンビニのことを書かせてもらって本当に良かったです。
やっとそれがわかったので、おばあちゃんにどうにか謝りたいなぁ。しかし連絡先はもちろん知らないです。
おばあちゃん。
もしネットの勉強をしまくってこの記事を見ていたとしたら、このダ・ヴィンチWebに連絡を下さい。
謝罪の意を込めて高級フランス料理でも行きましょう。
その時「パンorライス?」と聞かれたらすみませんがライスにさせて下さい。
パンが万引きを思い出すから? 違います。謝罪のお食事ですよ。当然ライスです。ライスが来たタイミングでおばあちゃんに言います。
米んなさい。
、、、、
おばあちゃん連絡待ってます。
<第30回に続く>