ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、北 駒生『書くなる我ら』

今月のプラチナ本

公開日:2026/8/6

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年9月号からの転載です。

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!

誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

(写真=首藤幹夫)

★今月のプラチナ本
書くなる我ら』(1〜3巻)

北 駒生 
講談社モーニングKC 759円~792円(税込)
文芸編集者として働く天城勇芽は、「小説界に熱い風を吹かせたい」と野望を抱く。理想のラインナップで新たな文芸誌を創刊すべく、勇芽は作家のスカウトに奔走する。女優やミュージシャン、さらには前科者や酪農家といった、様々な出自の書き手たちと出会い、時にぶつかりながら、ともに物語を世に届けようとするが――。物語を紡ぐ表現者と、編んで届ける編集者が織りなす、熱きお仕事群像劇。

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きた・こまお●2011年、「夜行日和」で第3回スーパーキャラクターコミック大賞 優秀賞を受賞しデビュー。これまでの作品に、朝ごはん食堂を舞台とした人間ドラマ『あさめしまえ』、文楽の世界に人生を懸ける青年が主人公の『火色の文楽』、『銀河のカーテンコール』などがある。

編集部寸評

物語にのって想いは繋がる

先日、某作家に「編集者は繋ぐ仕事だ」と教えられ、喉につかえた想いが腑に落ちた。主人公の編集者・勇芽は作家と繋がり作品を世に出さんとする。それは多くの人々の手を経て読者に届けられる。あるいは先達から後進へも受け継がれる。胸に野望を抱きながら、一歩引いた場所で書き手に対峙する勇芽に、文芸誌『群青』編集長は「君も闘技場に立てばいい」と放つ。覚悟を持て、と。私もやがて、受け取った多くの言葉を、後に伝える役目を負うのだろう。本誌の歩みも繋がると信じて。

似田貝大介 本誌編集長。猛暑対策にスースーする油や軟膏を塗って出社したら、エアコンの効いた編集部で凍えました。今号を含め、休刊まで残り3号です。

続ける強さ

文芸編集者・天城勇芽が向き合う作家は、ミュージシャンや俳優、酪農家など実に多様だ。彼らの物語の先にある人生に触れると、言葉がいかに身近で、だからこそ紡ぐことが難しいかを痛感する。彼らの感情が美しい自然物でドラマティックに描かれ、どんな言葉になるのかとワクワクさせられる。また、勇芽は物語への情熱だけでなく現実的な視点も持っている。「作家の心身の健康と収入の持続を守る」と、書き続ける作家を支えようと奮闘する、その姿勢が頼もしく魅力的だ。

久保田朝子 海や牧場など、本作では風景も美しく描かれている。豊かな自然の描写に触れると、日常を離れてふとどこかへ出掛けたくなってしまう。

言葉と生きるすべての人へ

人には誰しも飲み込んできた言葉の数々があるだろう。それに慣れてしまえば、その違和感さえ見失う。勇芽と、小説家を目指す酪農家・瞬も同じだ。とあるラフ案に対し、無意識のうちに本音を胸に隠した二人にデザイナーが問いかける。「自分に聞いてください 何に心が震えるのか 何が欲しいのか」。言葉を秘める美しさもあるけれど、対話を諦めてはいないだろうか。物語と、自他と向き合い続ける彼らが紡ぐ言葉は、文芸誌に関わる人だけでなく、今を生きる者たちの心をも照らし出す。

前田 萌 暑くなると、辛いものを食べる頻度が上がります。年々、料理に入れる辛味調味料の量が増えているような……。適量を見極めながら楽しみたいです。

正解のない関係性だからこそ

物語を紡いでいく作家と編集者はどう関わっていくのが最良なのか。そこには明確なひとつの答えなどは無く、それぞれの、その時々のタイミングによって幾重ものコミュニケーションが生まれ、それが作品に影響したり、しなかったりする。文芸誌の編集者である天城は、担当する作家たちに真正面から向き合って、時に強引に自分の想いを伝えていく。すべては素晴らしい小説を読者に届けるため。読み進めながら自身の仕事を顧みる。彼女の情熱がほとばしる働きぶりに心が突き動かされた。

笹渕りり子 前厄の歳なので、厄除け祈願へ。厳かな雰囲気に圧倒されながらも、祝詞を聞きながら徐々に心晴れやかな気分に。今年も無事に過ごせますように!

「他人と作るイミ」

文芸誌編集者・天城勇芽が執筆を依頼した幼馴染・一之宮瞬は、やや突っ走り気味の天城に言う。「読んだらわかんぞ 賢治もドストエフスキーも夢野久作も ひとりで月まで行っちまうんだろうなって」「他人と作るイミってなんだ?」。その答えは、物語で描かれる天城の仕事ぶりによって示されていく。なによりも、天城が作家と深く関わることを恐れず、いいものを作るという軸をぶらさずに向かい合っていく姿勢に胸をうたれる。いい仕事とはこういうことだと、教えられたような気がした。

三条 凪 天城が「売ること」を軽視していない姿勢もとてもいい。彼女がそうなったのには彼女の過去が深く関わっていて……ぜひ読んで確かめてほしい。

集めて、集まる

「編集者」という言葉には「集」の漢字が入る。主人公は作品だけでなく、作家のなかにひそむ隠れた衝動を「集める」。そして、それぞれの生きる星をひとりで孤独にさまよう作家たちは、彼女の気持ちに撃たれてひとつの雑誌に「集まる」。作中で「強欲」と描写されるほどのひたむきな情熱が、まったくあたらしいものを引き出し、人々を結びつける様子に私たち読者は背中を押される。本作が描くのは出版業界だ。だが、人とかかわりながら日々泥臭く生きていく、すべての人への応援歌でもある。

重松実歩 作中で上司から「すこやかにしたたか」と評される主人公に憧れます。年々ネガティブかつ打たれ弱くなっている自分もいつかそうなりたいものです。

全員がプロフェッショナル

紛うことなきプロの仕事が描かれていた。時に破天荒で直情的にも見える勇芽の行動は、けれども全て、作家が生きていけるように身を捧げているからこそ。他のキャラクターも然りで、誰一人として偏屈にも天邪鬼にもならない。その純粋で強固な炎が、新文芸誌を土俵に、重なり燃え上がってゆく姿は言いようもなく気持ちが良かった。そしてマンガである本作、絵もまた非常に魅力的だ。セリフを完璧に補って読者に語りかけてくる、キャラクターたちの目が読後も脳裏に焼きついて離れない。

市村晃人 指をくるくるして指先にトンボをとまらせるという、みなが試して悉く失敗する(と思ってた)技に先日成功したので今月は良い月になりそうです。

正直に仕事をする

なぜ編集者は、作家に寄り添い、とことん小説に情熱を傾けるのか。ひとりで月まで届く翼を持つ作家が、なぜ編集者を必要とするのか。本作は、編集者という奇妙で熱い職業の真価を力強く描き出す。「続きが読みたい」という編集者の渇望が、読者たちを引き連れて作家の腕を引っ張る。物語を生み出し、届ける全ての人の欲がむき出しでぶつかり合い、噛み合った瞬間、誰も止められない歯車が回り始める。編集者としてひたむきに、そして正直に生きる勇芽の仕事ぶりに勇気づけられる。

今村瞳子 夏が色めき立っているのを感じます。気分を味わうために、蚊取り線香と麦茶を買いました。小学校のプール帰りを思い出し、懐かしむ日々です。

ダ・ヴィンチ 2026年9月号

書くなる我ら(1) (モーニングコミックス)

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