外ではクールな180cmの元モデルが、家では甘えん坊の大型ワンコに!? 年上彼女とのギャップが尊すぎるガールズラブストーリー『さざめとりお』【書評】
公開日:2026/8/10

180cmの圧倒的な高身長と、誰もが見惚れるシャープな美貌。かつてモデル界で若きカリスマとして異彩を放っていた志岐さざめは、あまりにも重すぎる周囲の期待に心が擦り切れてしまい、すべてを捨てて逃げ出してきた過去を持つ。
そんな彼女が今、どこよりも自分らしくいられる場所――それがインテリアデザイン会社でバリバリ働く5歳年上の恋人、九重理央と暮らす等身大の部屋だ。
SNSで注目を集める服部雀によるデビュー作『さざめとりお』は、過去に傷ついた元トップモデルの年下女子(さざめ)と、ちょっとズボラだけど男前な年上女子(理央)の同棲生活を描いた、女性同士の凸凹ラブコメディである。

本作の何よりの尊さは、この「見かけのサイズ感」と「精神的な主導権」が見事に逆転した凸凹な二人のギャップにある。
外を歩けば誰もが振り返るクールビューティーなさざめだが、部屋に入って理央の前に行くと、大きな身体をちんまりと折り曲げて尻尾を振る大型ワンコに一変する。
思春期に「デカ女」と揶揄されて傷つき、ずっと小さくて可愛い女の子に憧れて猫背で生きてきたさざめ。そんな彼女を、理央は無条件に愛し、その腕の中にすっぽりと包み込んでくれる。
そんな理央は、まさにさざめの人生の「ヒーロー」そのものだ。
物語の後半、さざめを連れ戻しにやってきたモデル事務所の女性社長とさざめが揉めている最悪の修羅場に、スーツ姿の理央がフラリと割って入る回想シーンがある。
迫力ある高身長の二人の間に、はるかに小柄な理央が毅然と立ちはだかり、「その人、怖がってますよ」と言い放つ構図の格好良さたるや……。

フィジカルなんて関係ない、大切な人を守ろうとするメンタルの強さだけで場を圧倒する理央の男前さに、さざめならずとも一瞬でハートを撃ち抜かれてしまう。
そんなヒーローに救われたさざめが、理央のために美味しいご飯を作って帰りを待つ日常は、読むだけで胸が温かくなる優しい光に満ちている。
風邪の日の温かいうどん、ほっと息をつくクリスマスチキン、お正月の朝にふたりで食べるお雑煮。過酷な競争のなかで苦しんできたさざめが、理央の喜ぶ顔を想像しながら楽しそうに台所に立つ姿は、「好きな人と共に生きる」ということの、静かな美しさに満ちている。

「どの道が正解だったかなんて、きっと死ぬまでわかんない」。
過去の傷を抱えながらも、愛する人とご飯を一緒に食べ、お互いを世界で一番の味方だと信じて生きていく。華々しいキャリアから降りたひとりの人間が、ただ好きな人の隣にいることを選び続けるこの物語は、全編が眩しいほどの多幸感で満たされている。
一度読めば、不器用で愛おしい凸凹カップルの虜になり、二人の未来をずっと応援したくなること間違いなしである。
文=西狸
