東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第43回(野尻)「本当に芸人は”働けない”のか? ~会社コントで「もしもし」と言ってしまう僕たちは~」

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更新日:2026/8/20

東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」提供:無尽蔵 野尻

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第43回は野尻回。

第43回(野尻) 「本当に芸人は”働けない”のか? 〜会社コントで「もしもし」と言ってしまう僕たちは〜」

こんにちは。無尽蔵の野尻です。昨年の秋、X上で「社会人経験のない芸人がコントで会社員の役を演じると、電話に出て『もしもし』と言うので違和感がある」という趣旨のポストが注目を集めました。正しい電話対応は「お電話ありがとうございます」の後に会社名と自分の名前を名乗るらしいのですが、例に漏れずアルバイトとお笑いしかしたことのない私には、何が問題なのか当該ポストを一読しただけでは見当がつきませんでした。

芸人はしばしば自分たちを「社会不適合者の集まり」と自嘲しますが、それは実際のところどこまで本当なのでしょうか。そして芸人は、一般の社会人の方へいかにしてリスペクトを表明すべきなのでしょうか。

例えば、「会社員の人ってすごいよ。毎朝決まった時間に起きて出勤するなんて俺には絶対無理だよ」と芸人はへりくだりますが、私はこの発言にそこはかとない特権意識が見え隠れしている気がしてならないのです。まず、会社員の方々を、早起きをして会社にいくことが得意であるかのように語っていることに違和感を覚えます。並みの芸人よりも朝が弱いにもかかわらず、無理やり早起きをしている方々は絶対にたくさんいるはずで、その人たちの責任感に対する誠意が足りないと私は思います。別に好きでも得意でもないけど、生活のため、将来のため、体裁のため、親のため、家族のために早起きすることを選んだんだよ。

まずもって芸人の会社員へのイメージが大変貧困で(働いたことがないから仕方ないのですが)、『あたしンち』や『サザエさん』や『クレヨンしんちゃん』のお父さんがやっていること、くらいの解像度しか持ち合わせていないだろうと思います。その結果、社会人を芸人と対置して「替えが利く従順な社会の歯車」かのように語ってしまうわけです。つまり「芸人は社会不適合者だから」という発言には、有り体に言えば自虐風自慢のような側面があり、お笑いの仕事は選ばれし者しか携われない、クリエイティブで特別なものだという思い上がりが含まれているのです。社会人の方々だって、新しい価値を創出しようと日々もがき、競争にさらされ、才能を生かし、その仕事に誇りを持っているはずなのです。その日々の工夫を漠然な「サラリーマン像」で覆い隠し、「毎朝スーツ着てさ~」と手放しに讃えるのは慇懃無礼ではないでしょうか。

あえて言いますが、私は働こうと思えば働けると思います。何らかの事情で芸人活動の継続が困難になったらそのときは働きますよ。でも働いていないのは、自分が社会不適合者だからではなく、単にお笑いが好きだからです。お笑いをやりたくてやりたくて仕方ないからです。芸人のみんな、変にへりくだるのはやめて「お笑いをやっているのは、お笑いが好きだから」と言おうよ。

ここで、「お笑いだって働いてることに入らないの?」という問いが浮かびますが、個人的には入らないと思っています。まず会社員と違って芸人は成果を出さなくても誰にも咎められないという無責任さがありますし、何より多くの芸人に「お金を払ってでもお笑いをやっていた」過去があるからです。採算を度外視した純粋な創作活動といえば聞こえはいいですが、要はそれって道楽じゃないですか。趣味が高じてたまたまお金になっているだけで、最悪無給でやってもいいと思っている。無給でやってもいいと思っているなら、そこに大した責任も生まれません。

結局のところ、語りえぬものについては沈黙しなければならないのでしょう。労働というものに対しアルバイトかアニメのサラリーマンくらいのイメージしかないわれわれに、社会人の方々をねぎらう気の利いた言葉などないわけです。なのでわれわれは、芸人である前に一人の人間として「いつもありがとうございます」と敬意を表するくらいしかできません。そしてそれは一人の人間としてまったく十分なことだと思います。

提供:無尽蔵 野尻

■無尽蔵
サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。
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<第44回に続く>

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