尽くした結果が「悪女」のレッテル!? 王太子に婚約を破棄され、力を奪われた聖女の報復サクセスストーリー【書評】
PR 公開日:2026/9/25

世の中には、いくら誠意を尽くしても受け取り方を誤解してしまう人はいる。それはとても残念なことだが、人はそう簡単には変わらない。それならば、そんな相手からは距離を取って自分の道を歩む方がずっといい――。
『どうも、噂の悪女でございます 聖女の力は差し上げるので、私はお暇頂戴します』(相良なほ:作画、三沢ケイ:原作/スターツ出版)は、ずっと尽くしてきた王太子に婚約破棄され、力までも奪われてしまった聖女の報復サクセスストーリー。原作小説は「小説家になろう」で第1位を獲得した実績もある話題作。原作者の三沢ケイ先生は、2026年7月より放送中のTVアニメ『「きみを愛する気はない」と言った次期公爵様がなぜか溺愛してきます』の原作者でもある。
王太子に婚約を破棄され、聖紋まで奪われた唯一の聖女
主人公は、8歳で聖女の紋章「聖紋」を得て、教皇に「あなたは次代の聖女となる唯一の人間なのです」と告げられた侯爵令嬢マリーアンジュ。マリーアンジュは聖紋を得てから国民の幸せを第一に考え、聖女の務めを果たすべく国のために尽力してきた。

しかし、王太子イアンは恋人である男爵令嬢メアリーに唆され、公然でマリーアンジュに婚約破棄を突き付けたうえ、聖紋——つまり聖なる力をメアリーに渡せと命じてきた。王家には「国王となるものは聖女を妃とし大切に慈しむべし」という規律があるためだ。

結局、マリーアンジュはそれらをすべて受け入れ、メアリーに聖紋を渡し、「これだけのことをされたのですからそれ相応の報いは受けていただきます」という言葉を残して帰路に就く。不相応な力を手にしたところで、聖女にはなれない。王族なら誰もが知っているはずの現実を知らない王太子に呆れながら――。
本作の魅力の1つに、主人公マリーアンジュのブレない強さと気高さがある。「力」ではなく「器」こそが聖女の本質なのだ。普通であれば絶望するような婚約破棄と力の強奪を、彼女はあえて淡々と受け入れる。それは諦めではなく「本物の聖女の価値は、紋章という形あるものだけで決まるわけではない」という絶対的なプライドがあるから。泥を塗られてもなお輝く彼女の凛とした美しさに、一瞬で心を掴まれた。
すべてを奪われた――と思いきや、責務から解放されて町を満喫!?
そんなすべてを奪われたマリーアンジュに声をかけたのは、王太子イアンの側近であるダレン。

現王妃の実家であるヘイルズ侯爵家の令息でもあるダレンは、かねてより彼女のことを気にかけ、厄介なイアンを陰でハンドリングしていた実力者だ。王太子の婚約者という立場からも聖女という責務からも解放されたマリーアンジュは、ダレンと町へ出て楽しいひとときを過ごすなどしながら交流を深めていく。

一方、メアリーは聖女として扱われる快感に酔いしれ、好き勝手に力を使い、妃教育や必要な礼拝をすっぽかし周囲の信頼を損ねていく。さらには気に入らない侍女を次々とクビにし始めた。そして我儘な彼女をかばうイアンも、次期国王としての資質や心構えの欠如が一層露呈して――。


マリーアンジュを見ていると、彼女が心折れず前向きでいられるのは、これまで積み上げてきたものがあるからこそというように感じる。積み重ねてきたものが理想の形で報われるとは限らないが、それでも確実に自分の中に積み重なってその人を作っていく。「これまでこれだけのことをやってきた、乗り越えてきた私だから大丈夫」という強さは、誰にも侵害できない、一朝一夕では手に入れられない貴重な財産なのだ。そしてそうしたひたむきな行ないは案外周囲も見ていて、「思い」という形で周りの人々の心にも根づいている。
王太子の側近ダレン、そしてマリーアンジュの思惑は――?
こうして別の道を歩むことになった王太子イアンとマリーアンジュだが、イアンへの愛想は尽きていても、聖女の力を必要としている「プレゼ国」を見捨てるわけにはいかない。本物の聖女は自分だけなのだから――。そう考えているマリーアンジュを見守りながら、ダレンにも彼の譲れない「手に入れたいもの」があった。ふたりはそれぞれ自らの意思と思惑で、イアンとメアリーの身勝手な行動にじわじわと切り込んでいく。

ふたりが積み重ねてきた身勝手さが、マリーアンジュの報復が、どのような形に収束していくのか非常に気になる。そして1巻ラストでは、ついにダレンが大きく動き出す――!
王道の「ざまぁ」要素に加え、主人公マリーアンジュの精神的自立や、他人の努力を奪った者たちへの因果応報が緻密に描かれる本作。理不尽な状況を打破したい人に自信を持っておすすめしたい。
文=月乃雫
