バン・マリーへの手紙
バン・マリーへの手紙 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
本書は、2004年に「図書」に連載されていたエッセイをまとめたもの。初出誌の性格からも、本にまつわる話題、また著者の経歴(それを買われて連載することになったのだろうし)からはフランス(言葉であったり、文学であったり、社会であったり)に纏わるものが多い。読む人によって興味を魅かれるテーマには差がありそうだ。私は音楽を巡る「悪魔のトリル」、あるいは博物学的な「キリンの首に櫛を当てる」が面白かった。日本でも、江戸時代に象やラクダなどが江戸の街にやって来て、大人気を博したようだ。なお、小説の発想とは違うと実感。
2014/10/09
コットン
kashihaさんのおすすめで25の短編からなる本。作家ではあるけれど、小説家と紹介されると違和感があると言われる堀江さんの文は自身が書かれる手法として、先が分かっていたら面白くなく、書くことを楽しみたいと言われ、読むたびに、ゆったりしたワクワク感に充ち溢れている。例えば『煉瓦工場の退屈』:「景色が風景になったとき、それは乾いた地肌を見せる粘土質の山や灌木の繁み、煉瓦干しの棚や窯のうえの煙突といった事象から具体性をひきはがして、こちらの創造力との関係性のなかでしか生まれえない架空の磁場になっている。」
2018/02/26
踊る猫
本書に収められたエッセイのうちの一編を読み、意地悪な疑問が湧いた。堀江敏幸の「専門分野」とはなんだろう。フランス文学や日本文学の古典、であるようでしかしその領域だけに留まらない読書の幅の広さを感じさせる。だが、堀江を信用できるのは「専門分野」でもフェアネスと冷静さを貫くから。その本とのある種のフラットな接し方はそのまま堀江の日常の些事の身の施し方でもあり、心地よい「どっちつかず」(もちろん、褒めてます!)として結びつく。だが、あまりにもスマート過ぎてアクがない。今に限った話ではないが、この卒のなさは厄介だ
2020/07/12
つーさま
タイトルにあるバン・マリーとは、直接火にかけないことで飲食物を調理し保温する<湯煎>のことを言い、堀江さんはこの言葉に複眼的で戦闘的な思考を見いだすが、こうした白黒はっきりしない中間的な場所を設けることは文学的な意味合いを通り越して、現実のあらゆるシチュエーションでも大切ではないか、というメッセージを著者は吸収しやすいよう湯煎することで微温状態にし、余熱を利用して読者の耳元でそっと溶かしていく。恍惚とでも表現すべき心地よさが始終読者を掴んで離さない。(続)
2013/07/19
ぽち
いつもながらに芳醇で清冽で、かつウイットにも富んだ語彙で紡がれていく連鎖する書物と記憶と風景。バン・マリー=湯煎をモチーフに、直裁でなく、緩やかに醸成される豊かな味わい。数年間に隔たる断片が蝟集してダブルミーニングにもこぼれるイメージが浮かんでくるのは散文ならではなのかな。書くこと(読むこと)から立ちあらわれてくる、漠としたものにこそ惹かれる。最後のほうに収められている「飛ばないで飛ぶために」は物書き志望の方は必読!と、「必」なんていう語は似合わない書物ですが。
2014/10/15
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- ISBN
- 9784813804383