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万暦赤絵: 他二十二篇 (岩波文庫 緑 46-3)

万暦赤絵: 他二十二篇 (岩波文庫 緑 46-3)

万暦赤絵: 他二十二篇 (岩波文庫 緑 46-3)

作家
志賀直哉
出版社
岩波書店
発売日
1972-02-16
ISBN
9784003104637
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万暦赤絵: 他二十二篇 (岩波文庫 緑 46-3) / 感想・レビュー

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カブトムシ

「震災見舞(日記)」が、この文庫本に載っていると思います。そこに「方丈記」が出て来ます。「自分は一体『方丈記』をそう好かない。余りに安易に無常を感じているような所が不服だった…しかし自分は今度震災地を見て帰り、その後今日まで変に気分沈み、心の調子とれず。否応なしに多少方丈記的な気持ちに引き入れられるのを感じた」と日記に書かれています。関東大震災の時には、志賀直哉は、京都の山科に住んでいました。麻布の実家の様子を見に信越線回りに乗って出掛けた日記です。因みに谷崎潤一郎は、関東大震災の後、関西に居を構えます。

カブトムシ

「震災見舞(日記)」と「万暦赤絵」が載っているということは、大正の終わりから、昭和の初期の作品集です。里見弴と和解して、旧満州(現中国東北部)を昭和の初期の満州事変の前に南満州鉄道の招聘で、ともに旅行します。里見は「満支一見」という紀行文を書いて、満鉄の招聘に応えているのですが、志賀直哉は「万暦赤絵」に少し書いただけでした。阿川弘之の「志賀直哉」にも、記述がほとんどない。川端康成の「文藝時評」も里見の「無法人」という小説に軍配を挙げています。中村光夫「志賀直哉論」も昭和2年の「邦子」の評価が低いです。

荒野の狼

本短編集に収録の「濠端(ほりばた)の住まい」は、志賀直哉が1914年に志賀直哉が約100日にわたって滞在した松江城の濠(ほり)にのぞむ一軒家での出来事が書かれている。この一軒家は一年後に、芥川龍之介が松江に17日間(8月5日-21日)、滞在した時に住んでいた家で、この時の作品に「松江印象記」がある。二つの作品は、異なる内容であるが、滞在した場所が同じであるため情景描写には松江城周辺の風情があり、この部分は共通する。

2021/05/13

たんぐすてん

翻訳小説のぎこちない文章を読んでいて次第に心がささくれだってくるのを感じると、真当な日本語で書かれた小説で口直ししたくなるもので、そんなとき手に取るのが例えば志賀直哉の短編だ。この短編集には、家庭や旅先での出来事をホームビデオで撮影したかのように写し取った作品が多いのだが、平明達意の文章で活写された情景が水でも飲み込むように淀みなくするすると心の中へと降りてきて、それが何とも心地よい。「豊年虫」は、蜉蝣の大群が吹雪のように舞う光景と、それが翌日には忽然と消え失せてしまう儚さとを描いて幻想的だ。

2015/10/08

かもすぱ

短編集。全体を通じて物事がどう転ぶか誰にもわからないという諦観みたいなものがあり、『城の崎にて』に似た瑣末な動物の死という結末が多い。この感覚は主人公の感情にも向けられていて、自分がどう思うか、どう気持ちが動くかを律することができると思っていないように感じられる。読んでいて気持ちのいいことばかりではないけどめちゃめちゃ共感する。簡潔な文章のリズムも心地よく、精神性もこれだという感じがして、結果として気持ちのいい読書だった。

2018/09/21

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