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海の沈黙 星への歩み (岩波文庫 赤 565-1)

海の沈黙 星への歩み (岩波文庫 赤 565-1)

海の沈黙 星への歩み (岩波文庫 赤 565-1)

作家
ヴェルコール
河野 与一
加藤周一
出版社
岩波書店
発売日
1973-02-16
ISBN
9784003256510
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海の沈黙 星への歩み (岩波文庫 赤 565-1) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

ナチ占領下のレジスタンス文学との惹句だが、通常私たちが想像するそうした作品とは大きく趣を異にする。とりわけ前半の「海の沈黙」がそうだ。ここには砲弾や銃弾、あるいは熱き戦いや情熱といったものは皆無である。それどころか、物語世界で語るのは占領軍の将校(粗暴からは遠いインテリゲンチア)のみであり、きわめてクールな静寂が支配する。これに比べると後半の「星への歩み」は、フランスがより鮮明に強く意識されているようではあるが。もっとも、さまざまな意味においての文化の違いと喪失は、静かさの中にもひしひしと伝わってくる。

2019/03/23

新地学@児童書病発動中

レジスタンス文学の名作二編。この種の小説に私が抱くイメージとはかなり異なった小説だった。戦闘の場面はほとんど出てこないし、ナチスの残酷な所業も直接描かれることはない。ナチズムが個人の尊厳を押し潰すことが、抑制された文体で淡々と描かれている。「海の沈黙」は個人の内面をナチズムが破壊する過程を書いた小説。感受性豊かなドイツ人兵士の心が踏みにじられることに、やり切れない思いを抱いた。戦時中は敵国の国民は、あくまで敵なのだろうか。(続きます)

2018/05/19

syaori

この二作がドイツ占領下のフランスで書かれたことは作品を理解するうえでも重要なのですが、ただ「ナチとペタン政府の非人間性をあばいた」と言われると本当にそうなのかなと思います。フランスへの思慕と祖国ドイツへの信頼を裏切られたエブナレクの沈黙、自由と正義の国フランスへの愛を砕かれたトーマの叫び、そしてそれを語る「私」の苦悩。強く感じたのは彼らをそんな状況に陥らせる戦争とその体制への静かな怒り・悲しみで、抑制の効いた文章の下に息づくこの叫びゆえにこの作品は今日もなお慎ましく美しい輝きを放っているように思いました。

2017/12/13

紫羊

ほぼ30年ぶりの再読。端正ではあるけれど古めかしい印象を受けた。初読の時には気にならなかったから、それだけ時代が変わったということだろうか。改訳版を期待する。「海の沈黙」は映画も良い。

2018/05/31

みねたか@

レジスタンス文学というイメージを覆す静謐さ。細部まで磨き抜かれた言葉は美しい散文詩の趣き。「海の沈黙」は,すべてがある部屋の中で進行することもあいまって,相手に見つめられる一挙手一投足に全神経を集中するような,ひりひりする緊張感がたまらない。一方の「星への歩み」は一層流麗な美しい文章で語られる倒錯した愛情,熱情の世界。少ない紙幅に多数の箴言が盛り込まれた重厚な作品。一読では十分に理解できない。また時間をおいて再読したい。

2020/06/25

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