大使たち 上 (岩波文庫 赤 313-10)
大使たち 上 (岩波文庫 赤 313-10) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
小説が書かれたのは20世紀のごく初め。初出は雑誌への連載であったらしい。時代を考えれば主人公ストレザーの一人称語りであってもよさそうなものだが、ここでは絶対的な視点に立つ語り手がすべてを支配する。いわばあえて古いスタイルを採っている。そして、それを進行させて行く役割を担うのがゴストリー嬢である。また、元々マサチューセッツにいた頃は同じ価値観を抱いていたはずのストレザーとウェイマーシュとが対比的に語られる点も単純な構図である。私のイメージするヘンリー・ジェイムズからすれば、違和感を持つほどに平明である。
2021/08/12
ケイ
ストレザーと友人、ゴストリー嬢との3人の関係にとらわれていたら、そこは話の中心ではなかった。ゴストリー嬢は中心ですらなく、中心はチャド母息子。読んでいるうちに全体像を見させていく作品の構成に驚くが、その素晴らしい構成に胡座をかいておらず、その巧みさが作品に読者を入り込ませる。そして、決して読みにくくはない。登場人物も極めて少ないので戸惑うこともない。少しずつ驚くことを楽しみながらの読書。
2016/12/11
NAO
恋人の息子である金持ちの御曹司を帰国させるという使命を帯びてアメリカからパリへやってきたストレザーが、ヨーロッパに来た途端、羽根を伸ばすかのようにヨーロッパに魅せられていく。ストレザーがこんなにも簡単に使命を忘れ自分の位置を見失ってしまうのは、彼がちゃんとした自分を持っていないからではないのだろうか。この彼のふわふわしたいい加減さはきっと後でひどいしっぺ返しを受けるに違いないと予想されるのに、全くそれを感じていないストレザーの能天気さに少しイライラさせられる。
2017/03/13
syaori
ストレザーは55歳の米国紳士。物語は彼が「ヨーロッパ」に降り立つ所から始まります。彼が、ゴストリー嬢を案内役に、「洗練」された見方を身につけてゆくのを見るのは何と心躍ることでしょう。彼の訪欧にはある使命があり、それが彼をさらに「素晴らしい」人々へ導くことに。長い伝統に磨かれた気高い貴婦人と趣味の良い優雅な恋人、彼らの「選りすぐり」の交際。そんな彼らにも「いろんな問題がある」ことが示唆されますが、でも本巻の印象は次の会話に集約されるように思います。「パリ暮らしの魅力を楽しんでいらっしゃる?」―「思い切り」!
2019/07/12
星落秋風五丈原
【ガーディアン必読1000冊】大使たち、と聞くとすわ冷戦時代にスマイリーよろしく国際舞台を股にかけたプロフェッショナルたちの活躍を描いた作品?と思うが実際の所は別の訳書『使者たち』の題名の方が実際の彼等の果たした役割に近い。主人公の心理とその「視点」から見たその他の登場人物の心理に対する徹底的な描写はそれまでの文学作品には例のないものである。というわけで、本作はストレザーの心理状態の変化を中心に描く。主人公がいろいろと心が揺れ動いてくれないとあれこれ書けないがその点ストレザーは大いにネタを披露してくれる。
2021/01/09
感想・レビューをもっと見る