冗談 (岩波文庫)
冗談 (岩波文庫) / 感想・レビュー
ケイ
出版がプラハの春の前年1967年。クンデラ自身が共産党を除名され炭鉱労働をした経験も反映されている。1956年のスターリン批判から1968年までは、スターリンやトロツキーなどを冗談としてしまえる風潮もチェコにはあったということか。物語は、基本的に共産党員である4人の語りが交錯するが、書かれるのは不条理を含む人生。集団イデオロギーの持つ力、犠牲の子羊の作り方などが書かれても、人生を奪われたようでいて案外トータルで見るとそれほど人生には差はないのかもしれない。性行為と愛との違いをかいているのに驚いた。
2016/04/18
buchipanda3
「悲しみは薄っぺらでなく、笑いは引きつらず、愛はからかわれず、憎しみは内にこもらず、人々は体と心を愛している」。初クンデラ。その読ませる面白さにハマった。歴史と運命に翻弄される人間模様の物語性と人生を模索する哲学的思索の文学性が調和し、読むのが止まらなかった。チェコの二月革命後を題材としてそれを舞台に空虚や孤独によって人間が示す愛と憎しみのグロテスクで普遍的な面を曝け出す。上品でも下品でもなく単に誤りでも正しいでもなく、ただ人生の冗談のような姿として。そして過失の修復は忘却で果たされるという言葉が残った。
2023/09/01
優希
絵葉書に書いた冗談が青年の人生を狂わせるのが面白かったです。愛の悲喜交々が軸になっているのですね。フーガを思わせるのみならず、主人公の行動に共感させられます。クンデラ初の長編ということもあり、興味深く読めました。
2023/08/02
zirou1984
文庫版で再読。ルドヴィークの視点を中心としながらもその声はしだいに響き合い、最終部で多声的に広がっていく構成の巧みさはクンデラ初期の傑作と言われるだけあるが、登場人物の多くが30代にも関わらず、まるで50代のように感じてしまった錯覚は何なのだろう。それは著者自身の俯瞰から分析することで人生への思索を深めようとする姿勢の表れでもあり、人生が冗談のように過ぎていく悲劇を、喜劇として受容しようとする快楽の表明でもある。過ぎ去っていくものを振り返る、そこに歴史が生まれるのであり、それは個人も時代も同様なのだ。
2018/01/22
藤月はな(灯れ松明の火)
4人の男女の語りで描かれる愛と人生の悲喜劇。何気ない冗談のため、共産党から追い出され、兵役に就いたルドヴィーク。再び、街に戻ってきた彼は復讐のために罠を仕掛けるが・・・。家庭間での思想の違い、使命の名に隠れた傲慢さが浮き彫りになっていく。ルドヴィークのルツィエに対して執着も純真無垢でありながらも歴史の一幕を担う者に関わる存在であるというイディアに執着していただけとしか思えません。そのため、旧約聖書での貞淑なるスザンヌ的ルツィアに対して、ヘレナの性欲による愛という俗的な美を持つ肉体描写のギャップが際立ちます
2015/04/17
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