小説の技法 (岩波文庫)
小説の技法 (岩波文庫) / 感想・レビュー
lily
クンデラの存在、ちっとも軽くない。翻訳も自分でチェックし、手直ししないと気が済まない。小説の定義集まで編んでしまって。美、未経験、隠喩なんかはクンデラの拘りが染み出ていて楽しい。読者は小説家の手に引かれながら、実存の未知の側面を探索しに行くのだ。
2019/08/05
syaori
作者が自身の小説観を語った文章、対談を収めた本。彼は、小説の存在理由は「ただ小説だけが発見できるもの」を発見することだと話します。それは「人間の存在を解明するために、あらゆる知的な方法と」「詩的な形式を動員する」ことで、つまり小説家は「実存の探求者」であるべきなのだと語るその言葉からは、生活が社会的機能に還元され、個人の存在が忘却の中に沈む現代社会に、セルバンテスやカフカの遺産を継いで新たな「人間の可能性」を、美を示すのだという強い思いが伝わってくるようで、「小説」を愛する者として胸の熱くなる一冊でした。
2020/08/28
zirou1984
文庫版で再読。小説と同じように七部として編まれたエッセー集。彼自身の定義を借りるならば、クンデラが書いたテクストというのは極めて作家的だ。それは小説か否かに関係なく明晰かつ思考の刻印を残したものであり、それ自体が一つの作品となっている。しかしながらクンデラが憧れ、自らを系譜として位置付けようとするのは寧ろ小説的なものであって、それは形式によって実存という未知の洞窟を切り開こうとする行為である。それが矛盾なのか否かはよく分からないが、ふとした一文で貫かれてしまうその魅力は本作においてもやはり変わらなかった。
2016/06/08
Nobuko Hashimoto
授業で学生と『存在の耐えられない軽さ』『冗談』『不滅』を続けて読んで、最後に復習がてらクンデラ自身の小説論で締めくくるつもりで選んだのだが、薄い本にもかかわらず本作が一番手こずった。クンデラは他の作家や哲学者や作曲家を引き合いに出すことが多く、ヨーロッパの精神や文化を継承し発展させるという意思を色濃く盛り込む人なので、ボーッと読んだりザーッと読んだりができない。その分とても頭を使った。ここはという箇所をブログに記録。http://chekosan.exblog.jp/26553773/
2017/01/10
呼戯人
かつてのチェコスロバキアで生まれ、ドイツ語文学をこよなく愛し、カフカ、ムージル、ヘルマン・ブロッホを20世紀小説の最高峰と評価し、しかし自分自身はフランス語小説を書く作家、これこそミラン・クンデラであり、彼自身が20世紀小説の最高峰へと昇りつめようとしている。そのクンデラによる小説論。1968年のプラハの春を体験し、その後全体主義ソビエトによって踏みにじられた弾圧下でフランスに亡命した。そういう作家だからこそ、プルーストでもなくジョイスでもなくカフカを最高の作家として位置付けるのは深く頷けるところである。
2018/10/23
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