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ある晴れた日に (岩波現代文庫 文芸 155)

ある晴れた日に (岩波現代文庫 文芸 155)

ある晴れた日に (岩波現代文庫 文芸 155)

作家
加藤周一
出版社
岩波書店
発売日
2009-10-16
ISBN
9784006021559
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ある晴れた日に (岩波現代文庫 文芸 155) / 感想・レビュー

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新地学@児童書病発動中

終戦直前の軽井沢や東京の生活を描く小説。主人公の太郎は医師なので、医師だった作者の経験が反映されているのだろう。名著『羊の歌』からも分かるように、作者は第一級の散文の書き手で、良い文章を読む喜びを存分に味わえる。緊張感のある端正な文章なのだが、窮屈なところはなくて血の通った温かみがある。全体として人間性を押し潰す戦争への強い怒りが感じられる。しかし、怒りをあからさまに表現せずに、忘れがたい小説に昇華して表現する所に作者の知識人としての誇りを感じた。知の巨人は小説の分野でも巨人だったのだ。

2016/06/25

シュシュ

第二次大戦末期の軽井沢と東京、若い医師の太郎と周りの人たちが細やかに描かれている。出征した夫が音信不通な上に出征先の弟から青酸カリを送ってくれという手紙が来たあき子 。いつ死ぬかわからないという中で愛し合おうとする太郎とユキ子。監視される窮屈な社会だったが、日本が負ける話をする人たちもいた。戦争中威張っていた憲兵の敗戦後の姿が惨めだった。暗雲がおおっていたような太郎の心が、敗戦直後生きていける明るさに変わった。戦時中の閉塞感をなぜだかリアルに感じてしまうのは、今の社会に似たものがあるのかも。

2016/10/06

羊の歌で加藤周一は、戦時中、私はそもそもはじめから生きていたのではなく、眺めていたのだ。私自身はいくさが大日本帝国の正体を暴露したと考えていたが、いくさが暴露したのは実は“私自身”であったのかもしれない、と回想していたのを思い起こす。このある晴れた日は、加藤の沈黙と傍観からの脱皮を語る著者らしい反戦小説ともいえるのではないだろうか。

2015/02/16

mt

教科書のような癖のない、綺麗な文体を堪能した。加藤周一が書く太平洋戦争であれば、戦争に対する著者の思いは想像がつく。戦争末期、敗戦の雰囲気が漂う中で人々は国策に弄ばれる。戦場に駆り出された者は無感覚となり飛行機に乗り込む。戦争の悲惨さは加藤周一が描いても余りある。小説で戦争を文学として批判すること、逆に戦場で戦う者を美しく描くこと、共に自由である。我々はそんな時代に生きている。その当たり前のありがたさに改めて気づかせてくれる作品だ。羊の歌の「8月15日」を読み返した。肝の据わった人である。

2015/05/14

Ikkoku-Kan Is Forever..!!

終戦の迎え方、それぞれの八月十五日。丸山眞男はポツダム宣言の「基本的人権」という単語をみてジーンっと目頭が熱くなった。その日がまた母の命日と知るのは九月に入ってからである。川端康成は「祖国の敗戦を聞いて、日本古来の悲しみの中に還っていくようである」と書いた。戦中『源氏』を読みふけっていた作家は、この国は『源氏物語』に滅ぼされたのだと思った。三島由紀夫にとって昭和二〇年は失恋と妹の死でそれどころじゃなかったが、橋川文三は墓地を彷徨い、吉本隆明は布団を被って泣き喚いた。①加藤周一にとって敗戦とは何であったか?

2014/08/18

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