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海うそ (岩波現代文庫)

海うそ (岩波現代文庫)

海うそ (岩波現代文庫)

作家
梨木香歩
出版社
岩波書店
発売日
2018-04-18
ISBN
9784006022983
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海うそ (岩波現代文庫) / 感想・レビュー

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ちなぽむ@休止中

熱気に立ちのぼる草いきれ、噎せ返る生命の気配に息がしづらい。カモシカのどこまでも透明な瞳、クイナの愛らしさに生命をいただいて。人間の采配の先にある大いなるものには、有り余る敬意を捧げたくなる。 信仰、足をつけて生きる日々、それらも変わってしまったものなのに、昔を愛惜することは人のエゴでしかないけど。 くらい黒い海、月がしんと静けさを与えたらひそやかにたらい舟を浮かべて。失われた、もはやどこにもない此処に帰りたい。 変わってしまった島ではなく、記憶のなかのそれに。あの草いきれを、海の静けさを肌で感じたい。

2019/08/14

ケイ

《生者が来るところではないところ》がある島。そこにフィールドワークをしにきた男の頭をよぎる逝ってしまった人達。なぜその島なのか、そこでなくてもそういった場所はあるだろうに。中途半端なところも残す作品だが、妙にまどろっこしい書き方の文章に、気づけば食らい付き、島の音にともに耳をすませた。学生時代に行った父島や、数年前に行った屋久島のイメージが重なって、この中の島となり、私の中に記憶された。

2019/06/15

buchipanda3

南九州にある(架空の)遅島。南西諸島と同じような植生に恵まれ、様々な鳥たちの鳴き声が山あいの中で静かに響き渡る。その自然の生態を五感で感じさせるような著者の文章を噛みしめるように味わった。島巡りでは巻頭の地図を何度も見ながら、地名の由緒を想像しつつ彼らと旅するような気持ちに。かつてそこにあった自然と人の結びつきの名残。それは時代の流れで形として見えなくなっても、地名や伝承として引き継がれる。その痕跡に物寂しさと共に不思議なおかしみも感じた。桶樽で温泉に向かう生活など自然の中で飾らない人の営みもいい感じ。

2021/08/29

rico

昭和初期、調査のためにある島を訪れた青年秋野。自然や島民との交流が丁寧に描かれ、美しい紀行文のよう。しかしいつしか、失われ行くものへの静かな哀惜が物語を満たしていく。平家の落人伝説に廃仏毀釈の痕跡。秋野の家族や許嫁の死。島民それぞれの過去。そして50年後、すっかり姿を変えた島。変わらぬものはない。開発の象徴たるあの橋もいずれは消えていく。海うそ・・・蜃気楼の向こうに老いた秋野は何を見たのか。色即是空。喪失は必然。そうなのだろう。でもだからこそ、ささやかな人の営みが愛おしい。そう簡単に悟ってたまるかと思う。

2019/05/27

ふう

植物が怖ろしいほどの熱気で山を包む南の島で、人々は自然と語り合いながら倹しく暮らしている、その営みのなんと美しいことでしょう。でも、生きるというのは変わり続けること。人も、動物も、地球を包み込む大自然も。変わり続けて大切なものが失われ、島の歴史もあちこちに潜んでいた何かも消えてしまいました。海うそだけが変わっていく島を見つめていたのでしょうか。みんなみんな生きた。その時の風に吹かれ、誰かを愛しみ、そして独りで…。雪の中で立ったまま凍死していくカモシカの哀しみを誰も助けることはできません。

2018/05/15

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