優しい鬼
優しい鬼 / 感想・レビュー
のっち♬
南北戦争前に独裁的な夫にケンタッキーへ連れてこられた妻と仕える奴隷娘2人の物語。半世紀以上跨いだ3つの時系列を頻繁にローテーションしたり重複や虚実錯綜も含む複雑な構成。夫が3人と関係することで暴力連鎖が激化する壮絶な内容だが、どこまで切迫しても語りが静謐で詩的な美しさを損なわない。終始読者に様々な想像や行間読みを促す不明瞭さや焦らし方といい、語り名人の真骨頂。黒人奴隷娘の視点も素朴な抒情を湛えていて著者の並ならぬ覚悟を感じる。『被害者でもあったことによって加害者であったことが相殺されるわけでは決してない』
2022/04/11
藤月はな(灯れ松明の火)
誰のせいでもないが、誰のせいでもあった事で大切な者を喪った時、男の心は永遠に死んでしまった。そこから漣のように広がった暴力と怒りと復讐。夫から暴力を受けても誰にも助けを求められず、かといって誰も助けなかったジニー(スー)。そんな彼女がライナス殺害後、贖罪としてジニアとクリオミーからの飼い殺しを甘んじる姿は彼女達が元は姉妹のようだった頃を思うと余りにも残酷だ。だが、ジニアの甥のプロスパーの名の意味に気づくと、声なき叫びと渦巻く怒り、過去の自分への悔いに揉まれながらも微かで確かな希望は確かにあったのだ。
2017/12/13
Willie the Wildcat
青空と雲だけは知っている、咲き誇るヒナギクたち。姉妹であり、母子であり、そして女性。クリオミーの語る「人間創生」。蝋燭の炎が生命であり、宿った生命に”差異”はない。救うため、救われるための生命。虐げられる中、ジニーがジニアとクリオミーに見せたライナスの写真。ジニーの思いを、プロスパーが”姉妹”に繋いだのではなかろうか。受け継がれる思い。但し、奇麗ごとばかりではない事実であり、悲しき現実という感。
2018/11/17
nobi
仮名は発音(声)と一致させようとして生まれた文字故、語り(声)の文学にきっと向いている。この小説は語り主体。柴田氏はひらがなのおおい日本語に訳していて、やわらかいぬのの肌ざわりがある。ただその文は優しさを保ったまま凄絶な場面を綴る。心を亡くすことによってのみ成しうる容赦のない仕打ちを。強い感情表現は殆ど見られない。後半に現れる「わたしのなかにはげしい怒りがあった」という言葉が唯一ではないか。半世紀以上の時代を行き来し、喜怒哀楽や五感が擬人化されても不自然でない記憶とも幻想ともつかない詩的な世界に囚われる。
2017/08/15
キムチ27
秋、一番の作品に会えた。文学、物語というより抒情詩といった肌さわり。読み終え 昔見た「カラ―パープル」を思い出し、その時流れた涙の温度が甦った。骨組みが無く、語り手が変わる事での戸惑いは拘らなければ、すんなり流れに乗れた。「わたし」「あたし」「私」と語る想いは時代によって微妙に変わって行く19C後半から20C初めのアメリカの社会を伝えている。登場人物―白人の「楽園主」、14歳で嫁いできた少女、2人の子供、奴隷の姉妹、インディアンらしき❔人物が描かれるが文章は恐ろしいほど感情を抑えた事実のみ。だけに怖い・・
2020/10/01
感想・レビューをもっと見る