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波打ち際の蛍 (角川文庫)

波打ち際の蛍 (角川文庫)

波打ち際の蛍 (角川文庫)

作家
島本理生
出版社
KADOKAWA
発売日
2012-07-25
ISBN
9784041003893
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波打ち際の蛍 (角川文庫) / 感想・レビュー

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黒瀬 木綿希(ゆうき)

遥か高みに設置されたひび割れまみれのガラスの床を、いつ崩れるのかと一歩一歩戦々恐々としながら歩いている気分に浸れる恋愛小説でした。 かつての恋人によるDVで心が壊れ、生きることに臆病になっている麻由。そんな彼女と出会った蛍もまた心に傷を負っていた。もっと彼に近付きたいのに体格差、浮いた血管、節くれだった手など否応なく立ちはだかる性別の壁。 常に緊張感と隣り合わせの仄かな恋路が行き着く先は大人な味付け。このラストは決して悲しいものではない。

2020/07/01

おしゃべりメガネ

思いのほか、時間のかかった再読となりました。過去のツラい経験から男性とうまく接するコトができない主人公「麻由」と、おなじくメンタルを少し患っている年上の「蛍」が出会い、お互いの距離感をとても丁寧に、慎重になりながらつめていく話ですが、なんせひたすらずっともどかしく、イライラとまではなりませんでしたが、ヤキモキはさせられました。終始、ピュアで私のココロには純粋すぎて素直に作品のもつクリアなモノを受け止めきれなかったと思います。それでも本作はやっぱり島本さんワールドの原点なんだろうなと感じさせる作品でした。

2020/09/18

のり

麻由と蛍の出会いは歓びと、戸惑いと、後ろめたさが同居する。お互いを必要としているのに、一番近くにいて、一番遠い存在。心に傷を抱えている二人だからこそ、一歩引いてしまう処と適当差が曖昧になる。麻由の心の傷は、自分が特別な一人になる為に課した自業自得のような気もする。まだ出会ったばかり。時を経て、新たな二人にエールを送りたい。

2017/12/20

しいたけ

とぎ澄まされた美しい文章。螺旋階段を登らねば核心に辿り着けない、その手法。だからこそ際立つ、過去の鋭利な痛み。読んでいるあいだ、私の周りの空気は薄っすら血の色が混じるマーブルになる。海にのまれないよう、波打ち際の白線になってくれるという男。溶けあいたいのにそれを阻む、深海と水面を行き来する記憶。つらい物語のはずが、夜の海に乳白色の明るい揺らめきを映しだす。寄り添おうとしてくれる人がいることの奇跡。生きづらさを抱える人の物語は、恋愛小説だけれど恋愛を超えている。

2020/09/06

さてさて

『ふくらんだ月はじっと夜空に座り込んだまま、追いかけてくる。闇に飛び込んで、闇から逃げて、また闇に戻っていくようだった』という麻由の心の内。そんな麻由というDV被害を受けた女性が歩む人生の一場面を切り取ったこの作品。「波打ち際の蛍」という作品名に込められた蛍という存在。闇に包まれた麻由の心の内をほのかに照らす蛍が導く未来を感じさせるこの作品。とても丁寧に、とても繊細に、そしてとても透明な表現で綴られた作品だからこそ感じる人の心の脆さに触れた、そんな作品でした。

2020/12/18

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