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いくさの底

いくさの底

いくさの底

作家
古処誠二
出版社
KADOKAWA
発売日
2017-08-08
ISBN
9784041061756
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「いくさの底」のおすすめレビュー

戦時中のビルマで惨殺された将校―犯人は村人か部下か? 戦争ミステリの傑作『いくさの底』

『いくさの底』 (古処誠二/KADOKAWA)

そうです。賀川少尉を殺したのは私です。 もちろんあなたの倫理観においては許されることではないでしょう。ですが少しだけ立場を逆にして考えてみてください。二度と訪れない好機が巡ってきて、それでも行動を起こさずにいられるものでしょうか。

 戦争ミステリ『いくさの底』(古処誠二/KADOKAWA)は衝撃的なモノローグから幕を開ける。台詞の主が誰かは最後まで分からない。ただし、人間の倫理観を揺さぶる問いかけは、一筋縄ではいかない本作の展開を示唆している。読者は戦時中のビルマで起こる事件を通して、善悪について考えさせられるだろう。

 本作の舞台は第二次世界大戦中期、ビルマである。青年将校の賀川少尉が率いる一隊は山奥の村に警備兵として派遣された。当時のビルマは日本軍の戡定後であり、一隊は中国軍の脅威から村を守る役目があった。しかし、決して一隊は友好的に迎え入れられてはいないと通訳の依井は悟る。村長こそ「賀川チジマスター」とにこやかに呼びかけてきたものの、村人たちは重い雰囲気を漂わせていた。

 そして、すぐに事件は起こる。…

2017/12/17

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いくさの底 / 感想・レビュー

powerd by 読書メーター

ケンイチミズバ

名誉の戦死を遂げたことになれば、今更生きていましたは許されない。国にも帰れない。人は簡単に死ぬ。そして人はなかなか死ねない。無能な上官の行動で失われた戦友の命、失態を隠蔽するための無謀な作戦がさらなる不幸を招く。インパールではまさにそれが起きたと言っても過言ではないのだろう。陸軍は兵隊を殴りすぎるから戦闘中に味方の方角から将校に向けて飛んできたとおぼしき銃弾も実際にあったそうだ。軍隊内部での怨恨、不都合な真実はなかったことにされる。彼の言葉が全て真実であればなんとも報われない。ラストは圧巻だった。

2017/12/18

naoっぴ

そういうことだったのか!と天を仰ぎたくなるような結末。ビルマの村に派遣された日本軍警備隊の賀川少尉が殺される。事件の犯人は誰か。軍内では情報が隠され、村人は戦時状況の下、誰も本当のことを言えない。日本軍、村人、支那軍、華僑の間の歪んだ関係は、硬質な文章にも煽られて緊張感たっぷり。戦闘シーンはないが、表に出て来ない戦争の恐ろしさが感じられ物語に引き込まれた。ラストにかけての長い告白に、事件の裏に潜む戦争の理不尽と不自由さ、それに縛られざるを得ない人々の心の悲しみが胸に迫ってきた。

2017/12/08

yumiko

以前読んだ「中尉」が強く印象に残っている著者の新作。日本人の少尉を殺したという衝撃の告白から幕が上がる。一体誰がなぜ…?硬質な文体で緻密に、論理的に、進められる物語。ともすれば無機質な印象になってしまいそう。しかしそうならないのは、描かれているのが徹底して人間の心だから。人の命を奪うことは到底許されないことだ。しかし戦時下、この状況下だからこその悲しくやりきれない理由が胸を打つ。映画化もされている有名作品を思い浮かべたけれど、名前を出すのはネタばれになってしまうかも。 気になった方は是非手に取ってみて。

2017/10/30

おかだ

大好きな古処誠二さんの作品。堪能した。戦時中のビルマが舞台。少尉が殺された。犯人は内部の人間か、外部の仕業か。そうこうしてるうちに村長も殺され…という話。ゴリゴリの戦争小説の中で展開される極限の密室的なミステリー。この人にしか書けない風味の作品だと思った。デビュー当時からのファンとしては、がっつりミステリーをいっぱい書いて欲しいと思うけど、もちろん古処さんの戦争小説も好き。その両方の願望を満たす作品だった。でもいつもの戦争モノにある逼迫感というか、極限の命のせめぎ合いの濃度は薄く、少し物足りなくも感じた。

2019/01/29

ホッケうるふ

読者への挑戦状のような殺人者の独白に刺激され推理を巡らしたがまるで外れた(笑)。現代の作者による旧軍用語を散りばめた語り口が昔読んだ旧軍元兵士達の手記を思い起こさせる。日本軍の異常性を象徴する“生きて虜囚の辱めを受けず” 改めて思うが日本人は短期の「戦闘」には精神性を発揮するが長期の「戦争」には向いてない。欧米や中国の大陸人こそ合理的かつ長期的視点による戦争のビジョンとタフな覚悟がある。そして本作は彼の地を舞台にした日本の名作文学をダークに再調理してチェスタトンの名トリックで仕上げたのだと結末で知り驚愕!

2020/03/17

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