バック・ステージ (角川文庫)
「バック・ステージ (角川文庫)」のおすすめレビュー
注目作家・芦沢央が心に焦点をあてる人間ドラマ『バック・ステージ』の魅力
『バック・ステージ』(芦沢央/KADOKAWA)
ひとつの舞台で起こる連作短編集が好きだ。特に各話の語り手が替わるものがいい。エピソードによって主役が入れ替わり、背景が切り替わることそのものを楽しめるからだ。同時間軸に起こる複数の物語を描いた連作は、スポットライトの影さえも利用した舞台作品のようだと思う。
そしてステージと舞台裏の両面をまるごとひとつのシナリオに落とし込んだジャンルを“バック・ステージもの”と呼ぶ。『バック・ステージ』(芦沢央/KADOKAWA)は、まさに連作のおもしろさとジャンルとしての“バック・ステージもの”を融合した作品だ。
あるひとつの会社から始まる物語は、次に名もなき通行人Aとして描かれていた母親にスポットライトをあて、その次には学生を照らし、やがて役者の裏側を描き、最後には舞台作品を通じて会社の物語へと戻っていく。
著者である芦沢央さんの作品には、ストーリー全体のほか、ミクロな視点で楽しめる“影”もある。それは人物一人ひとりの心理や行動に隠された偏見や弱さ、不安だ。スポットライトを浴びる表での“ふるまい”と舞台裏の“心…
2020/12/15
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バック・ステージ (角川文庫) / 感想・レビュー
しんごろ
脚本・演出が島田ソウの舞台の公演には、舞台裏、会場の外には、誰もが気づかない事件が多発してたわ。他人には些細なことかもしれないけど、当人達には大事件だね。嶋田は曲者だわと思うし、澤口を成敗してスッキリしたのもいいし、玉ノ井さんもやる時はやるよですごいと思ったけど、奥ちゃんと伊藤、松尾と康子さん、すごく良かった。恋の始まりは微笑ましくなった。話に無理があるとは思いながらも、こんなとこに伏線をはってたかと感心したり、楽しく読めました。【サイン本】
2021/05/06
さてさて
『結局、この一日は何だったのだろう』。“パワハラ上司”の弱みを握るために奔走する松尾と康子のドタバタ劇が描かれたこの作品。そこには全く関係のない四つの物語を一つに繋いでいく芦沢さんの鮮やかな手腕を見る物語が描かれていました。五つの物語が一つに繋がり、その一方でそれぞれに結末を見るという鮮やかな構成に魅せられるこの作品。物語どうしが緩やかに繋がるそれぞれの物語の魅力にも囚われるこの作品。“バラバラのピースが予測不能のラストに導く、驚嘆の痛快ミステリ”という謳い文句が伊達ではないと感じさせてくれた作品でした。
2024/01/10
のり
仕事は出来るが、部下へのパワハラが目に余る上司に不正の疑いが… 先輩の「康子」と新人の「松尾」は証拠集めに乗り出す。変装や誰にでもうちとける話術がスゴイ康子。その過程で開演間近の舞台の周辺でも様々な出来事が。何気ない日常の悩みや恋愛模様まで…舞台演出家のぶっ飛びな策や、俳優陣の心の揺れも伝わってくる。あれだけ高圧的だったパワハラ上司の小心振りにもビックリ。探偵の真似事した二人のこの先も気になる。
2021/03/30
アッシュ姉
人気演出家の舞台裏で巻き起こる群像劇。登場人物はさほど多くなく、個性豊かに描かれているので混乱せずに読みやすい。イライヤミス作家のイメージを覆す、痛快に楽しめるストーリーが新鮮。面白かったので、これからも白黒どちらの芦沢さんも読んでいきたい。
2023/03/28
イアン
★★★★★★☆☆☆☆ 悪徳パワハラ上司の不正を暴こうとする先輩康子とそれに巻き込まれる新人松尾。鬼才嶋田ソウ演出の舞台。この2つの出来事を軸に、計5つの物語で構成される短編集。それぞれの物語にわずかながらも他の物語が絡んでおり、舞台を横から覗き込んでいる気分にさせられる。特に「始まるまで、あと五分」は、さりげない伏線や終盤のどんでん返しが鮮やかで、このために640円払ってもいいと思えるほどの後読感。ただ個人的には、『許されようとは思いません』の方が芦沢央らしいゾクッとするような不穏な雰囲気があって好き。
2020/04/27
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