KADOKAWA Group

Facebook Twitter LINE はてブ Instagram Pinterest

横しぐれ (講談社文芸文庫)

横しぐれ (講談社文芸文庫)

横しぐれ (講談社文芸文庫)

作家
丸谷才一
出版社
講談社
発売日
1989-12-26
ISBN
9784061960657
amazonで購入する Kindle版を購入する

横しぐれ (講談社文芸文庫) / 感想・レビュー

powerd by 読書メーター

三柴ゆよし

上手すぎる。日本文学史そのものをめぐるミステリであると同時に、「私」という存在の謎を突き詰めんとする近代以降の文学伝統のパロディでもある。「樹影譚」と並ぶ、丸谷才一流「私?」小説の大傑作。おもしろいのは、この小説では、語り手側にふりかかる偶然、及び意識的・無意識的な見落とし、読み落としによる進展と留保があまりにも多い。たとえば丸谷があとがきで言及しているナボコフもこういう偶然力にわりと頼る作家だが、絢爛な文体と細部の丁寧な描きこみによってそれを不自然と感じさせないところが、両者非常に似通っていると感じた。

2019/12/18

チャーリブ

ひさびさに読み直してみたが、すっかり粗筋も忘れていたのでほとんど初読状態。話は、作者を擬した「私」が、死んだ父親が旅先で山頭火に逢っていたかもしれないという可能性を「横しぐれ」という言葉を手がかりに探っていくという、いわば国文学ミステリー。歌合で判者俊成が「横しぐれ」という当時の新語を優雅ではないと非難したという古典文学の話なども興味深いが、肝心のミステリーの方は最後の最後になってとんでもないオチが現れてきて、まさに人生のミステリーとなっている。人生不可思議。○

2021/09/09

ドン•マルロー

何度読んだか知れない。笹まくらでもなくたった一人の反乱でもない。丸谷才一の随一の作品は間違いなく表題作であろう。父の過去を求める話。そして父の過去を茫々とけぶる横しぐれのなかにおいてくる話。伏線がいささか作為的にすぎるが、それもご愛嬌というものだ。フィナーレの美しさが全てを消し去る。読者の感動までをも横しぐれのなかにおいてくることはきわめて困難だ。

2019/03/06

ネムル

日本文学そのものを題材にしたミステリ。『円朝芝居噺 夫婦幽霊』『六の宮の姫君』の祖先。題材を種田山頭火と自由律詩俳句にしているからか、言葉の切り詰め方と変転が流麗で詫びている。そしてラスト、死の意味付けから父の葬送という流れそのものがミステリの本質を直撃するようでいて、なかなかショックだった。傑作。併録短編では「だらだら坂」が好き。

2015/04/13

Bartleby

語り手の「私」の父が、友人の黒川先生と旅した松山で、流浪の俳人・種田山頭火に出会った可能性がある。「横しぐれ」の言葉が、彼らの間で授受されたエピソードを手がかりに。その仮説を追跡するうちに、父の暗い過去とその旅が関係していることが明らかになってくる。山頭火の研究書でもありまた極上のサスペンスでもある、知的好奇心を刺激しまくりの傑作小説。こういう趣向は小説というジャンルでしか凝らせない。無名の一市民の一生を、有名な俳人との邂逅で飾ってやりたいという息子の虚栄心も垣間見え、胸をうつ。

2022/12/21

感想・レビューをもっと見る