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懐かしい年への手紙 (講談社文芸文庫)

懐かしい年への手紙 (講談社文芸文庫)

懐かしい年への手紙 (講談社文芸文庫)

作家
大江健三郎
出版社
講談社
発売日
1992-10-02
ISBN
9784061961968
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ジャンル

懐かしい年への手紙 (講談社文芸文庫) / 感想・レビュー

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Gotoran

四国の森の中の谷間の村出身の(著者自身とおぼしき)作家K。谷間の村の在の富裕な家に生まれ故郷にとどまって独学でダンテの研究をしている、Kの師匠のギー兄さん。Kちゃんとギー兄さんの交歓を中心にストーリーが展開していく、その過程で繰り返されるダンテの「神曲」とイェーツの引用などでストーリーに奥行きを加えて、読み手を大江ワールドへ誘っていく。読み応え十分だった。逝去された大江健三郎氏のご冥福をお祈り致します。

2023/03/14

ドン•マルロー

大江氏はこれまでの仕事や半生を振り返らねばならぬ時期にさしかかっていたのだろう。作品を深化させ、新たなるステージへと前進するために。自らの主要な作品をギー兄さんなる架空の存在の目を通して批評し、半生を振り返るその語り口は、あくまでも未来に向けられたものだ。とりわけ”懐かしい年”への唯一の通路を見出す結末の数行は感動的で、並列世界のイメージを用い続けた作家のひとつの結論ともとれ得る。本作においてもラテンアメリカ文学のような、現実と虚構、四国の森の伝承や神話とが並行して語られるというスタイルはあいかわらずだ。

2016/04/27

ちぇけら

これだから大江健三郎を読むのをやめられないのだ、そう思って本を閉じる。谷間と「在」、Kちゃんとギー兄さんをめぐる物語、ぼくはこれを読むために、これまで大江健三郎を読んできたのだ、という感動と疲労が混淆した酩酊にも似た感情に包まれる。イエーツやダンテの詩句にみちびかれて、Kちゃんとギー兄さんはそれぞれの道を進んでゆく。生きてゆくということは、幾許かの寂しさを伴ってみな歳を重ねるということ。生きること、そしてやがては死にゆくこと、それらの意味が、ダンテの詩句と共鳴して体の底で鳴り止まないカタルシスとなるのだ。

2022/02/06

zumi

半自伝的小説の傑作。虚構と現実、物語と批評は、ここで融け合う。何度でも作品世界を書き換え、再構築し、拡大していくことを突き詰めていく。「私の小説が自分とその周囲のことばかり書きながら、それが私小説の枠組みを超えたものであるなら、それは私が社会で生きている人間だということを忘れていないから」といった、大江先生の言葉が思い浮かんだ。1月に読んだ、ラウリー『火山の下』がついに繋がった。

2014/12/08

❁Lei❁

斜め読み。K叔父さんと先のギー兄さんの物語で、『燃えあがる緑の木』の魂の救済という主題につながる前日譚です。かつて両性具有の美しさを持つ子どもとして有名だった美青年ギー兄さんは、Kに勉強を教えることになり、そこから二人の交流が始まります。ダンテの『神曲』にも似た性と罪の煉獄巡り、そして回心。「個」としての力をたくわえるための根拠地「美しい村」造り。戦後という時代性や安保闘争の背景を踏まえて読むとより理解が深まるだろうと思いました。

2022/12/21

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