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宙返り(上)

宙返り(上)

宙返り(上)

作家
大江健三郎
出版社
講談社
発売日
1999-06-10
ISBN
9784062097369
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宙返り(上) / 感想・レビュー

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梟をめぐる読書

95年の長編『燃え上がる緑の木』で一度は理想的な宗教共同体のモデルを打ち立てた大江健三郎が、同年に発生したオウム事件を受け、ふたたび現代における〝信仰〟の意味を問う。かつて内部の急進派勢力によるテロを阻止するため、マスコミの前で自ら棄教を宣言(「宙返り」)した教祖。それから十年、今でも一部の元信者から〝師匠(パトロン)〟として慕われていた教祖は木津という新たな〝案内人(ガイド)〟を得て、教団の再建に乗り出すのだが…。ギー兄さんの去った地に、新たな時代の教会は建つか。期待に胸膨らませつつ後編に進む。

2013/03/20

相生

前作『 燃え上がる緑の木』同様、宗教を題材に魂の救いを求める物語。当時は救い主を求める雰囲気が時代に漂っていたのだろう、燃え上がる⋯の発表直後に地下鉄サリン事件も起こった。テロ後カルト排斥の流れが強くなる中、当の教団が潰滅に追い込まれることは勿論、信仰の対象を失いそれでも魂の救いを求める熱いエネルギーをくすぶらせていた人も多くいたはず。《宙返り》という価値の掌返し(教え主が棄教した!)から10年、再度教会の再建を目指す物語は再生の祈りを秘めている。とかいう風に読めた。まだ何も始まっていないけど。次下巻!

2016/03/23

amanon

後期大江作品の中でもこれは傑作といえるのではないか?という気にさせられた。主人公に対する大江自身の投影が比較的希薄なのが、個人的に好感が持てる。また、オウムをかなり意識し、また実際にオウムの名前も引き合いに出される、新興宗教団体の教祖、およびその信徒達の姿に、真摯という言葉では片付けられない、人間の在り方を如実に抉り取ったという感さえ覚える。その団体と奇妙な関わり方を持つに至った木津とその若い恋人郁夫の関わりには、一抹のどぎつさを感じないわけではないが、それでも一つの愛の形として読む者の心をうつはず。

2024/01/13

あかつや

再読。教団内の急進派を抑えるため、一度は自らが説いた教義を「冗談だった」と否定した新興宗教団体の長・師匠と案内人。それから10年、新たな関係の仲間とともに彼らは活動を再開しようとする。前作を「最後の小説」と定め、小説家を引退した大江の復帰作。それがこれまで幾度か試みたものの必ずしもうまくはいかなかった三人称の語りであったのに当時けっこうな衝撃を受けた。おいおい大丈夫かよと読み始め、すぐにのめり込んで一気に最後まで行っちゃったんよなあ。読み返してもやっぱ面白いわ。小説家とレスラーの引退は信用してはいけない。

2021/09/04

ロータス

久しぶりの大江健三郎。やはり文体が独特なのでそのリズムに慣れるまで大変だったが、性的な描写なども含め上手い! 新興宗教の教祖の転向(ではないのだが)というテーマに大江さん固有の問題意識を感じたし、オウム真理教事件をどう乗り越え受け止めていけばいいのかを小説を通して投げかけるやり方も圧倒的。下巻も読了してからの感想だが、上巻は読者サービスのようにも思える。

2021/09/06

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