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水死 (講談社文庫)

水死 (講談社文庫)

水死 (講談社文庫)

作家
大江健三郎
出版社
講談社
発売日
2012-12-14
ISBN
9784062774321
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水死 (講談社文庫) / 感想・レビュー

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かっぱ

過去の作家と自認している老作家の最後の大仕事として、父を題材にした「水死小説」に挑もうとするが、小説の資料が詰まっていると思われたものの中にそれらしきものは見つからず狼狽える。何度も夢に見てきた父の死地への旅立ちのシーンは、母が残したテープによりその真相が明かされる。作家の作品を劇化してきた劇団員に感化されつつ、郷里の森の中で、土地の歴史や現在の家族、過去の家族について思いを巡らせる。「水の中の森」という魂が還ることのできる場所を持つ地域というのは、それだけで、豊かな文化があるように思えた。

2013/01/06

タイコウチ

「取り替え子」に続いて「おかしな二人組(スウード・カップル)」3部作の「憂い顔の童子」「さようなら、私の本よ!」を読みたかったのだが、文庫が手に入らないので、その後の作品(2009)を先に。長江古義人シリーズ。かつて母から批判されたという1972年の「みずから我が涙をぬぐいたまう日」の「書き直し」という位置づけになるようだ。太平洋戦争末期に自死に近いかたちで大水の日に亡くなった父親をめぐる謎解きを主題に、故郷での現在進行の劇団との関わりが描かれる。作中で「水死小説」を書くことは断念したと繰り返される逆説!

2023/04/30

Majnun

まずは、劇団穴居人の女優ウナイコが演劇の素材に使う、夏目漱石の「こころ」。 ここに書かれる先生の遺書に書かれた「では明治の精神に殉死する」という言葉。 次に老作家長江古義人(ちょうこう・こぎと)=大江健三郎が、抜き差しならぬ事情で最後の小説のテーマに選ぶ「父の水死」。 古義人の父の「昭和の精神への殉死」。 そして、この水死の際、携行した赤革のトランクに入っていた「金枝篇」の原書に象徴された王殺しと森を守ることの神聖性。 このいわば森の神話と現代史の接続の試みを軸に、障害を持つ作家の息子アカリと父の確執と雪

2013/07/11

Francis

大江健三郎の最新の小説。著者の故郷をモデルにした「森」で展開されるこれまた著者自身と思われる作家と家族、そして周囲の人間による物語。今作は前に書かれた三部作よりも時代状況に対する危機意識が強く反映しているような気がする。とは言え、今作も面白く読めた。著者の年齢から考えるともしかしたら今作が本当に最後の小説になってしまうかもしれないが、かつて最後の小説にする、と宣言して書かれた「燃え上がる緑の木」三部作に比べると、この作品の方が遙かに優れていて、最後の小説にはふさわしいと思う。

2013/08/27

東京湾

果たされなかった蹶起と書かれなかった小説。父の遺した"赤革のトランク"を引き渡され「水死小説」の執筆に臨む長江古義人。彼の小説を演劇化して来た"穴居人"も加わるが、執筆は早々に頓挫する。混濁する父の記憶、息子との亀裂、団体からの糾弾、窮境の古義人が見出すものは。本作は水死した父の記憶をめぐり戦前と戦後の精神の分裂を描くと共に、劇団員のウナイコが変奏する漱石の「こゝろ」やメイスケ母伝説を通じて近代国家の圧制や被差別者の傷と抵抗の叫びを蘇生させる、ポリフォニックで重層的な物語だった。傑作。

2023/12/31

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