ヘンリー・ジェイムズ傑作選 (講談社文芸文庫)
ヘンリー・ジェイムズ傑作選 (講談社文芸文庫) / 感想・レビュー
星落秋風五丈原
『マダム・モーヴ』は『ある夫人の肖像』のリベンジ篇と言える。夫が変に純愛にこだわらずラブアフェアで留めておけばおきなかった悲劇。『五十男の日記』は自分の失敗談を話して「その恋愛やめときなさい」と忠告する男が正しいかに見えて…あえて視点を動かさないことが功を奏している。
2021/03/27
くさてる
百本に及ぶ中短篇の中から厳選された五本が収録されたもの。これが本当に面白い。人間性の複雑さと他者との関係性によって生まれるドラマは、時代と国境の壁を越える面白さを生むのだなあと感じた。ラストに至るまである意味でなにも起きない「モーヴ夫人」のスリリングさと、現代にも存在しそうな空虚で高潔で無力な人々を描く、なんともいえない後味のある「ほんもの」の二作がとくに心に残りました。
2017/10/22
拓也 ◆mOrYeBoQbw
中短篇集。『鳩の翼』『黄金の杯』等の傑作長篇が有名なジェイムズの中短篇5作を収めた一冊です。夏目漱石が挫折した難解の長篇とは違い、収められた作品は難解さが抑えられ、尚且つ心理描写の妙と、人称・視点の上手さは後期長篇と比較しても引けを取らないと思います。この本は幻想的な作品は省かれ人間関係と愛憎劇、そして芸術に関するリアリズム寄りの選になりますが、そこはコンラッドと同じく、物語の文法と語りの上手さ。一見メロドラマの様なあらすじも、精妙な対話劇と心理劇と化すのが驚異的ですね~(・ω・)ノシ
2018/04/25
ぺったらぺたら子
HJの小説は極上ながら濃厚過ぎて食べきれないケーキに似ている。つい上半分だけ食べて下半分を残してしまったりもするのだが、すると丁度横に居た美しい婦人が私の方を見て言うのだった。「あら、上半分を残されるのですね。」私が残したのは下半分ではなかったのか。しかし、もしかすると給仕が、一度床に落として拾った時に上下逆になったのかも知れず、またその婦人はその瞬間を見ていたのかもしれないのだ。そして、私が過去に食べたケーキが全て下半分であったならば、私はきっとこの様に生涯独身として幸せとは言い難い人生を送り(以下略)
2018/04/24
ぱなま(さなぎ)
良くも悪くもヘンリー・ジェイムズのイメージが変わる中期短編集。訳者解説にある通り、後期の長編から入るよりこちらの作品から入る方が絶対親しみやすい。いずれもストーリーは単純だし結末はあっけないものの、「信頼できない語り手」的な読み方をすれば主人公の思い込みや願望が浮き彫りになる。主観によって見える風景がいくらでも変わりえてしまうという人生の皮肉を感じさせて面白かった。サマセット・モームかと思うくらい読みやすいし(…と思うのは訳者のおかげかもしれないが)。
2022/07/05
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