火影に咲く (集英社文庫)
火影に咲く (集英社文庫) / 感想・レビュー
えみ
一寸先は闇。しかし、その闇にも色がある。明日の命さえままならない動乱の世で、死を常に身近に感じながら幕末を駆けた志を持つ者たちの面影を闇の中に見る。張紅蘭・吉田稔麿・沖田総司・高杉晋作・坂本龍馬・中村半次郎。行き場のない想い、殺伐とした熱狂、血の花が咲く京の都。佐幕も倒幕も関係ない。泥水の中でも美しい花が咲くように、どんなにその手が血で汚れようとも心が嫉妬で染まろうとも彼らの生の中に鮮やかな華は咲く。誰一人恥ずべき道は歩んでない、己の信じる道をただ歩む。それが愚かでそこが魅力。だからこの時代が好きなのだ。
2021/08/21
けやき
幕末の志士たちをそれを支えた女性たちを通して描き出す短編集。高杉晋作に人として認めてほしかった君尾を描いた「春疾風」がベスト。中村半次郎とさととの関係を描いた「光華」や龍馬を意識する岡本健三郎とたかを描いた「徒花」もよかった。
2023/05/23
エドワード
繰り返しドラマの舞台になる幕末、激動の京都に集う、お馴染みの志士たちの陰で健気に生きる女たち。どの章も彼女たちの一途な愛が胸を打つ。池田屋で命を落とす長州の吉田稔麿と、小川亭の若女将・てい。沖田総司と診療所ですれ違う老女・布来。祇園随一の芸妓・君尾と高杉晋作、井上聞多の邂逅。土佐の岡田健三郎は、寄宿先の売薬商・亀田屋のタカとの約束のお蔭で、坂本龍馬暗殺の場から逃れた。薩摩の中村半次郎は煙管屋の娘・さとと二人で写真を撮る。一瞬一瞬を命がけで生きたことは男も女も同じだ。尊さにおいて歴史は愛に遠く及ばない。
2021/09/14
piro
幕末の京都を舞台に描かれる短編集。歴史の中で脇役の人々の目線で語られる激動の時代がとても興味深く感じられます。直前に『燃えよ剣』を読んでいたので時代背景の予習は十分。病に伏せ始めた頃の沖田総司を描いた『呑龍』が一番心に残りました。若き会津藩士との邂逅と別れ、自分と同じ労咳を病む老婆との交流は、激しい時代の流れと違う時間が流れている様。総司が置かれた状況とその後を知るだけにグッときます。高杉晋作に想いを寄せる祇園の芸子君尾を描いた『春疾風』も良かった。どの短編も時代の空気が感じられる作品です。
2023/02/22
kawa
幕末の京都、公武合体派と討幕派の揺らぎの中で生きる志士たちが主人公の短編集。沖田総司や高杉晋作らビックネームのそれも楽しめるが、どちらかと言うとマイナーな人物、吉田稔麿「薄ら陽」、岡本健三郎「徒花」、中村半次郎「光華」が下士としての葛藤、ひがみ、不器用な恋がバランスよく描かれていて印象的。岡本の眼を通じた龍馬の人物造形も読みごたえあり。いつも期待を裏切らない著者の作品。他の幕末ものも意識的に読んで見ようと思う。
2023/10/16
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