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鯨の岬 (集英社文庫)

鯨の岬 (集英社文庫)

鯨の岬 (集英社文庫)

作家
河﨑 秋子
出版社
集英社
発売日
2022-06-17
ISBN
9784087444049
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鯨の岬 (集英社文庫) / 感想・レビュー

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みっちゃん

自分も北の大地に生まれ、住まいする身だが、こちら道央と道北、道東ではその気候の厳しさに格段の差があるように思う。寒々とした空気、強風で育たぬ植物、長い長い冬。その地で暮らす覚悟。彼の地に暮らすひとでなければ描ききれないのではないか。標題作は不幸というわけではないが、日々の暮らしに疲弊してふっとその日常から逸脱してしまう主人公の心情の描写が秀逸。そして幼い頃の強烈な記憶「鯨の爆発」の残酷な真相が明らかになる件は衝撃だったが、その悲しみを乗り越えて、また日々の暮らしに戻っていく姿と夫の武骨な優しさに涙。

2022/09/05

いつでも母さん

あぁ・・吞み込まれる。この文庫本の二編に、河﨑秋子の筆致に気付いたら呑み込まれていた。足搔きながらどうやら息をしてるのを確認出来て今、桜木紫乃さんの解説まで圧巻の『生』を感じさせてもらった。特に表題作の主婦・奈津子、身体の奥に徐々に蓄積された鬱憤や置かれた状況・・心の声に私の心が反響する。甘くもあり苦くもある。そんな記憶の蓋が残酷にも少し開いた感じ。

2022/06/21

buchipanda3

道東を舞台とした2篇。現代と江戸時代と年代の違う話だが、どちらもその場所に根ざした生活と自然の関わり合いが人の営みの原点だということを思い出させてくれるようで、興味深く沁み沁みと読んだ。表題作は昔の鯨漁の町の臭いが語り手の奈津子の頭に甦ってくる物語。著者の文章は五感へ包み隠さず訴える。それは今を生きている証を示すかのよう。そして老いた彼女が家族へと帰結した感じが印象深い。併録作では自然の中に生きる者は自然へ還るという考えがよぎった。飾り気のない文章ながらしっかりと読み手の心を掴むという感想が読後に残った。

2022/07/09

ふじさん

初読みの作家。道民作家。「鯨の岬」は、ある日母の様子を見に釧路へ行った奈津子は、ふっとしたことから幼い頃住んでいた霧多布を訪れることになる。そこでは、捕鯨の町にいた幼い頃の思い出が蘇る。旅を続けるうちに、忘れていた過去の辛い思い出が蘇る。老境を迎えた奈津子の置かれた生活環境と家族関係を描きながら、その生い立ちと忘れていた過去を掘り返した佳作。「東阪遺事」は、死と隣り合わせの過酷な大自然の中で人間の生き死を巧みに描いた壮絶な北の大地の人生ドラマ。作品の質が高く、これからの活躍が期待できる作家だと思う。

2022/06/23

のぶ

河﨑さんの出身地、道東を舞台にした中編小説「鯨の岬」と「東陬遺事」の二作が収められた一冊。どちらも自分の好みとマッチして心に残る作品だった。時代は前者が現代、後者が江戸時代と違うが、北海道らしさが良く描かれていた。「鯨の岬」は札幌に住む主婦、奈津子が釧路の母を訪ねる話。その途中に捕鯨の町にいた幼い頃が蘇ってくる。何という出来事はないが、その雰囲気がよかった。「東陬遺事」は蝦夷地野付に資源調査のため赴任した平左衛門が、過酷な自然の中で地元民との交流を描いた話。面白い物語が文庫で読む事ができて満足だった。

2022/06/25

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