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八月の青い蝶 (集英社文庫)

八月の青い蝶 (集英社文庫)

八月の青い蝶 (集英社文庫)

作家
周防柳
出版社
集英社
発売日
2016-05-20
ISBN
9784087454413
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八月の青い蝶 (集英社文庫) / 感想・レビュー

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ちゃちゃ

仏壇の抽斗から出てきた青い蝶が入った標本箱。それは、白血病で死に瀕する亮輔の秘められた想い出の品だった。物語は終戦前後と現代の広島を交互に描く。亮輔の淡い初恋とともに浮き彫りにされるのは、被爆して生き残った者の後ろめたさ。自己をごまかしながら生きる苦悩。世間は被爆体験を風化させるなと反戦と平和を声高に叫ぶが、語りたくない被爆者もいる。作者は被爆二世として親世代の激しい葛藤を、光と闇、生と死が混在する現実をありのままに物語る。戦争も原爆も知らない私は、その重さを受けとめ静かに黙祷を捧げよう。広島の原爆忌に。

2018/08/06

扉のこちら側

2016年599冊め。これはよい作品。タイトルから戦争や原爆を連想するのには難くないし、「青い蝶」の言葉には繊細さ、静謐さを感じるが、感傷的なだけの物語ではなかった。とりわけ第四章 証明では被爆者となってしまった自分を戦後どう受け止めていったかということ、そして被爆の語り部達のその後ろには、語りたくない人々の存在があることを強く考えさせられた。残念な点は少年の初恋や父親の不倫等、それぞれの人物の心情を丁寧に追ったが故に物語の軸がぶれがちだったところ。しかし新人のデビュー作としては評価する。

2016/07/28

しいたけ

川の街広島の美しさ、仄かな恋の未来を信じる少年の瑞々しさ、儚い希恵がふと見せた生への炎。地味でささやかな人々の営みの上を舞う、青い蝶。すべてをあの夏、8月6日、原爆が焼き切った。父の愛人に恋する亮輔の真っすぐな眩しさと、戦後被爆者として見えない川底で足掻きながら生を全うしようとする覚悟が、切ない対比となっている。「過ちを繰り返さない」と声高に叫ぶ人への応酬が秀逸。胸に迫った。翅の右上が焼けた蝶。仏壇の奥に置いたドイツ箱の蝶に、辛くても後ろめたくても生きることを手放さないと誓う日々が亮輔の生きた戦後だった。

2016/08/23

★Masako★

★★★★☆ 急性骨髄性白血病となり、最期を自宅で過ごすことになった亮輔。妻と娘のきみ子が部屋の改造中に、仏壇から見つけた翅の一部が焼け焦げた青い蝶の標本。これは亮輔のものなのか? 昭和20年、広島の夏。中学生だった亮輔の初恋。蝶の羽化を一緒に見るはずだった8月6日の朝…その約束は叶わなかった。終戦後、軍人の子として被爆者として、葛藤しながらも生き抜いた亮輔。「あの日のことは忘れて欲しくない。でも語りたくはない」多くの被爆者に共通する複雑な思いを、重く受け止めた。青空に舞う青い蝶と共に心に残る良作。

2022/08/16

Kazuko Ohta

読みづらい文体だというわけではないのに、思いのほか読むのに時間を要しました。偵察機の話の部分に興味を持てなかったからということもあるけれど、とても丁寧に書かれた作品ゆえ、丁寧に読まなければならないような気がしたからです。死期迫って自宅に戻った老人の少年時代の思い出。初恋の相手は父親の愛人。特異な家庭環境にありながら、各々が各々の存在を認めていたことがわかります。あまりに瑞々しいシーンの後の被爆シーン。そのギャップに打ちのめされました。まるで合唱組曲『チコタン』だけど、心安らかに三途の川を渡れたならばいい。

2018/08/23

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