櫛挽道守 (集英社文庫)
櫛挽道守 (集英社文庫) / 感想・レビュー
ミカママ
わたしにとっていい小説、それは読んでいる合間、そして読み終わってからも、登場人物たちに想いを巡らせてしまうような。尊敬する父親について、困難を乗り越えて梳櫛作りに生涯をかける登瀬とその家族。お仕事小説であり幕末小説であり、家族小説でもあり、そのうえわたしにとっては恋愛小説でもあった。今でも手作業で作られるというこの櫛、ぜひ手にとって見てみたい。
2019/08/02
KAZOO
木内さんの4冊目ですかね。今まで出一番の小説であると思いました。島崎藤村を思い出したりしながら読んでいました。1人の女性の半生を描いたもので、昔は女性にとっては大切であったくしを作る技を父親から引き継いでいく様子がじっくりと描かれていました。最近にはない小説らしい小説でした。また再読したいと思っています。
2019/02/12
じいじ
たかが「櫛」されど「櫛」。櫛に、これほどの「技」が隠されているとは…。とても奥が深いです職人技の世界。舞台は、中山道・木曽路の難所の薮原宿。16歳の娘・登瀬を主人公にした、櫛挽師一家の半生を丹念に描いた力作です。櫛づくりに込めた一家総出の情熱に胸がつまります。彼らが交わす方言の素朴さが、物語の味をさらに深めます。櫛挽名人の異名をもつ父親の眼鏡にかなった、職人の婿を無視して、頑なに仕事に打ち込む頑固な登瀬が頼もしくて可愛い。ついに、父を乗り越える技を身につけた登瀬。その登瀬の腹に赤子が宿る結末は感動です。
2018/08/25
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
木内作品は『漂砂のうたう』に続き二作品目。作品のクオリティとしてはそれなりに高いのかもしれませんが、主人公である登瀬の櫛挽きに対する一途な思いはまあ理解できるとしても、夫である実幸をそこまで受け入れることができないのはなぜなのかとか、いまひとつ釈然としない部分も。限られた情報の中で懸命に生きる人たちの心情を飾ることなく静かに描きそこで勝負した作品であり、このての作風は最近ではむしろ貴重だとは思いますが、物語としての面白さを自分の中でどう評価したらよいのかなと、ちょっとそんな気がしました。
2018/03/21
ちゃちゃ
雪を割ってひそやかに咲く福寿草。表紙の装画に、苦難に耐え櫛挽職人としてひたむきに生きる登瀬の姿が重なる。明治維新への胎動が聞こえる幕末。険しい山々に囲まれた木曽 藪原宿で、黒船の来航も皇女和宮の降嫁も街道を旅する人の風聞で知る。身を置く世界が狭くとも己の信じた道を一途に生きる。その揺るぎない信念が導く先に人としての幸せがある。たとえ自らの足跡を残さずとも、職人として満足がいくまで高みを目指す。その矜持に胸が熱くなる。嫁して夫に従うだけが女の幸せではない。人の幸せとは何かを問い、深く静かな余韻を残す名作だ。
2017/12/24
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