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裸の華 (集英社文庫)

裸の華 (集英社文庫)

裸の華 (集英社文庫)

作家
桜木紫乃
出版社
集英社
発売日
2019-03-20
ISBN
9784087458497
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「裸の華 (集英社文庫)」のおすすめレビュー

ストリッパーを辞め、札幌で店を営む。泥臭さとかっこよさが全編に流れる大人の小説『裸の華』

『裸の華』(桜木紫乃/集英社)

 ついさっきまでオーダーを取ってお酒を運んでいた女性が、ショータイムになった途端、ステージで踊り出す。そして汗を拭って、何食わぬ顔で戻ってくる。私はそういうお店に行くのが大好きだ。きっと、踊りたくてここで働いているのだろう。この体に手足が付いていることがうれしくてたまらない! そんな気持ちが伝わって、こちらの手足までムズムズしてくるのだ。

 もっと、ずっと、踊っていたいのだろう。それでも、与えられた仕事をきっちりとこなす。踊ることを人生の中心とするストイックさは、何をしていたってにじみ出る。

『裸の華』(桜木紫乃/集英社)の主人公で元ストリッパーのノリカが、初舞台を踏んだ札幌に戻り、若い女性ダンサーふたりとバーテンダーを雇って、ダンスシアター「NORIKA」を開いた。ステージで大怪我をしたまま、復帰できずに廃業した彼女は、自分が踊るのではなく、踊れるダンサーを育てる生き方を見つけたのだ。

 しかし「脚が上がらなくなったらおしまいだ」と、現役時代と変わらぬストレッチを欠かさない。傷はもう癒えている。ただ、元のように踊るには…

2019/5/28

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死ぬまで踊りたい――直木賞作家・桜木紫乃が描く、踊り子の矜持と生き様とは?

『裸の華』(桜木紫乃/集英社文庫)

「僕ね、死ぬんだ」ひときわ元気そうな声だった。「いつなの」やさしく訊ねた。

 桜木紫乃さんの小説『裸の華』(集英社文庫)で、いちばん印象に残っているのはこの場面だ。怪我が原因で引退した元ストリッパーのノリカのもとを、かつての常連・オガちゃんが訪れる。「生きているうちに、もう一回だけ会いたかったんだよ」と痩せ細った体で。引退宣言もせずに失踪したことを詫びることもなく、ノリカはただ微笑む。2年前、最後に会ったときと同じ女神の風格で。オガちゃんにとって「夢の人」であり続けるために。そのやりとりに、ノリカの矜持が詰まっていた。詳しく描かれずとも、彼女がどんなふうに生きてきたか、どれほど誇り高いストリッパーで、それゆえ愛されていたのかが伝わってきて、なんて尊いのだろうと胸を打たれた。

 ストリップ小屋を抜けたノリカは、故郷の札幌で、脱がないダンスショーを見せる店を開く。採用されたのは2人の若い女性だ。ダンス才能はほどほどだけど、愛嬌で誰より場を華やがせる瑞穂と、人づきあいは壊滅的に下手だけど、人生すべてをダンスに捧げる気迫と…

2019/4/3

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 ひとりオフの時間に、ウイスキーを片手に燻したような香りの余韻に浸りながら、読書という「航海」に出る。そんな至福の夜を過ごすのにぴったりの本を書評家の杉江松恋さん、書店員の新井見枝香さんに紹介してもらいました。

――お2人はふだん、ウイスキーは飲まれるんですか。

杉江松恋氏(以下、杉江) 好きですね。というのも、僕の父親は北海道の余市生まれなんですよ。ニッカウヰスキーの蒸溜所があるのと同じ場所。見学に行ったこともありますし、実家にはニッカのウイスキーが日常のものとして置かれていました。大人が飲むビール以外のお酒といえばウイスキーというイメージだったから、大学生になって飲むようになると、自分のヒップボトルを買ったくらい。

新井見枝香氏(以下、新井) 私はお酒に縁のない家庭で育ったんですが、高校を卒業したあと、幼なじみが水商売の世界に行きまして。あるとき、出世した彼女が六本木で勤めることになって、お店で水割りを作ってもらったんです。そこで、煌びやかなお店でウイスキーを飲む大人のかっこよさ、みたいなものに触れて以来、憧れのお酒です。ショーパブに行くのが好きな…

2019/5/17

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裸の華 (集英社文庫) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

直木賞作家として、今回もまずは練達の筆力である。物語の舞台に選ばれたのは札幌。これまでに読んだ釧路などと比べると北海道感はずっと薄い。もっとも、この内容からすれば、あまり強く地方色が出すわけにもいかず、結局のところ札幌というのはベストな選択であるようだ。お店のスタートに際して、都合よく人材が揃い過ぎるのにはリアリティに幾分か問題を感じなくはないが、これまたその後の展開を考えれば仕方ないところ。登場人物たちはそれぞれ、なかなかにに魅力的だが、主人公のノリカを差し置いて、浄土みのりの存在感が大きいか。

2023/04/03

さてさて

『みなそれぞれの事情を抱えてすすきのですれ違ってゆく。ここは交差点の街だ』という北国の街を舞台に、元ストリッパー・ノリカの挑戦が描かれたこの作品。そんな場に揃った瑞穂、みのり、そして竜崎。そんな彼らが『NORIKA』という『交差点』で出会い、それぞれの『夢』を追い求めて旅立っていくこの物語は、そこに人の再生を見る物語でもあったように思います。『銀座の宝石』と呼ばれた竜崎の作るカクテルの描写と、瑞穂とみのりのダンスの描写、そして元ストリッパー・ノリカの圧巻の演技の描写にすっかり魅了される傑作だと思いました。

2021/09/22

dr2006

桜木さんの作品を読むといつも、北海道への郷愁と凛とした女性の生き方に感銘を受ける。北海道は歴史が浅く他県から移住した人が多いせいか、定住や余所者に拘わらない。すすきのは様々な人を受入れ、そして通り過ぎていく交差点の様な街だ。そこで華々しく輝く彼らの一瞬を鋭く切り取る桜木さんの物語は素晴らしい。元ストリッパーのノリカは故郷の街でダンスシアターをオープンした。二人のダンサーとバーテンダーを雇う。桜木さんにしては順調な展開に実は、いつ落ちてしまうのかハラハラしてた。だからこそ希望に満ちたエンディングが感慨深い。

2021/09/03

naoっぴ

ストリッパーのノリカは、怪我を機に引退しダンスシアターの店をオープンする。店のダンサーやバーテンダーにはそれぞれの過去があり、自分を変えたい、超えたいと前向きに頑張る姿がとても清々しい。著者独特の湿度や泥臭さは感じさせつつも、本作は光に満ちた始まりの物語だ。「あなたにとって好きと楽しいは同じじゃないのね」とダンサーのみのりに問うノリカの言葉が心に残る。芸は技術だけでは寂しい。人を魅了し自分も楽しむことで光る。 物語に抑揚を抑えた情熱が散りばめられ堆積していく。足を踏みしめ、ためて、自分の一歩を踏み出す。

2019/06/06

納間田 圭

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2019/04/19

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