漂砂のうたう
漂砂のうたう / 感想・レビュー
yoshida
木内昇さんは初読みの作家さんです。まだ江戸時代の名残がある明治初期。武家の次男坊の信右衛門は定九郎と名を変え、根津遊郭の妓夫台に座る。時代の流れに取り残され、漂う砂のように生きる定九郎。凛として生きる小野菊花魁。遅咲きの噺家のポン太。明治初期の時代の変動で変わりゆく遊郭。時代の風景や空気感が良く表現されている。また、江戸弁が読んでいて心地好い。哀しい兄弟の再会。小野菊と芳里のやり取り。頑なな龍造。最後に残された小野菊の情人の謎。中盤から後半にかけて、一気に読ませる。日本の風情、粋を感じる素晴らしい作品。
2017/07/25
遥かなる想い
平成22年/2010年下半期直木賞受賞作。維新後の時代の変化に乗れず、漂う人たちを根津遊郭を舞台に丹念に描く。定次郎という主人公が地味すぎて逆に小野菊という花魁が凛という存在感を放っている。龍造というぶれない男が何かをしてくれる のでは..という淡い期待が裏切られたのが少し残念。最後の小野菊の姿もよい。
2013/05/19
いつでも母さん
海岸で流れや波に揉まれ漂う砂の如くの定九郎の人生なり。江戸から明治へ、時代も身分も何もかも自ら動かせはしない、苦界に生きる男の周りには、己の生きる道を己で拓いた花魁(おんな)がいた。苦界には苦界なりに自分を張る男もいた。もやもやしながらも物語から目が離せない。終始どんよりとした空気感なのだが何故だろう読み切った。木内作家の力作か。直木賞も頷ける(と、いつもの上から目線はお許しを)しかし、いつの世も女は強いなぁ。
2016/01/20
うののささら
永遠に続くはずだった徳川家康のつくった武士の世の中が、大きな刷りものでひとつの色に塗り替えられるように明治になり西郷隆盛も死んだ。武士とは精神も構え含めた生き方そのもの。武士という枠にしがみつかなければ生きていけない。脱ぎ捨てたはずの過去にしばられ誰かが不自由になるのを願いながら息を潜めて過ごしていく。武士って世襲で子供の頃からの教育で頭が凝り固まってしまって器用に生きられないな。時代という陳腐なものに流されて新しい時代には必要なくなる武士。
2020/09/13
ウッディ
明治維新直後、根津遊郭で店番をする定九郎。武士が身分や生きる糧を失ったこの時期、巷で自由が叫ばれていても、底辺から抜け出すことができない定九郎たちの閉塞感は、廓から出ることができない女達と近いものであったのかもしれない。神出鬼没な噺家のポン太、身を投げた花魁との再会など、幻想的な雰囲気もあり、夢を見ているような不思議な読後感でした。ただ、花魁道中でなぜ紙衣が破れたか、ポン太が定九郎に付きまとう理由、兄のその後など、すっきりせずにモヤモヤが残る一冊でした。芥川賞だけでなく、直木賞とも相性が悪いのか・・?
2020/06/18
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