透明な夜の香り
「透明な夜の香り」のおすすめレビュー
“亡き夫の香り”を求める女性が抱える後ろ暗い秘密とは――どんな香りでも作る天才調香師の切なく優しい物語
『透明な夜の香り』(千早茜/集英社)
振り返れば毎日、何らかの香りに包まれ、癒されながら生活しているように思う。朝は、コーヒーの香りで目覚め、出掛ける前にはお気に入りのピオニーの香水をひと吹き。お昼は焼きたてのパンの香りに誘われて、気がつけばパン屋に足を踏み入れているし、疲れた夜はアロマの加湿器をつけて眠りにつく。そういえば、ふとした瞬間に嗅いだ香りで、とうに忘れていたはずの懐かしい記憶がブワッとよみがえることもある。香りは、想像以上に人と密接に関わっていて、深い世界なのかもしれない。
千早茜さんの『透明な夜の香り』(集英社)は、そんな「香り」の持つ力や不思議が、心に傷を負った繊細な人間たちの目線で、身体のすみずみまで深く染み入るように綴られた小説だ。
物語は、心に傷を負い、部屋にこもりきりだった元書店員の一香(25)が、古い洋館の家事手伝いのバイトの面接に行くところから幕を開ける。香料植物や薬用植物でいっぱいの庭園がある重厚な雰囲気の洋館には、小川朔という天才調香師が暮らしていた。
短髪で、かすかに灰色がかった目、まるで“紺色”のような暗く見え…
2020/4/25
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透明な夜の香り / 感想・レビュー
starbro
新型コロナウィルス対策購入シリーズ第50弾(遂に50まで来ましたが、もう少し続きます)、千早 茜は、新作中心に読んでいる作家です。天才調香師の連作短編集、美しく馨しく怖ろしい物語でした。香りだけでここまで推理出来ると、調香師探偵も成立しそうです。
2020/05/18
mint☆
タイトルが素敵。そしてこの小説の雰囲気がとても好き。心に傷を負い引きこもり気味になってしまった一香。人の感情さえ匂いで感じ取ってしまう、超人的な嗅覚を持つ調香師、朔。匂いを表現するのは難しそうだがこの本からは様々な香りが匂い立つ。香りだけではなく一香を通して見る色の表現も物語の輪郭を鮮やかにする。仄暗い危うさを感じるのに温かくて不思議で静けさも感じる。また好きな本に出会えた。
2020/08/22
いつでも母さん
カバーの不穏な感じとタイトルに惹かれて。『噓は、におう。』ドキリとする言葉じゃないか!天才調香師・小川朔が言う言葉はどれも心に刺さる。秘密を抱えたまま自らの処し方に迷うバイト・一香が、依頼人たちに応える朔や新城、源さんと接することで再生していく物語。視覚や触覚、聴覚だけでなく嗅覚から思い出すことはないか?懐かしい匂いは思い出も加味されて恋しさが募るばかりだ。父の整髪料の匂い。この世では会うことが叶わぬ人の匂い。どの思い出にも私だけが感じる匂いがある。それは狂おしいほどに私をあの日に引き入れる。
2020/05/06
ウッディ
鋭い嗅覚を持つ天才的な調香師・朔の元で、助手兼家政婦として働くことになった一香。彼女は引き籠りの兄を見捨てた後悔の香りをまとっていた。タイトルのイメージ通りの静謐で神秘的な香りをモチーフにしたファンタジーでした。特に病気の息子に生きる希望を与える香りを作る話に泣けました。香りは時や場所を選ばず、唐突に心の中に入り込んでくる。そして、「香りは脳の海馬に直接届いて永遠に記憶される」。楽しい思い出、切ない記憶、ふとした瞬間に過去を連れてくる香りがあるからこそ、朔と一香の未来が明るいものであってほしいと願う。
2020/11/14
みどり虫
とても好みの世界観。朔と一香っていう名前からして好き。新城、源さん、さつきちゃんも好き。表紙はちょっと違うかなぁ…。昔、恋人が東急ハンズで「みどり虫が好きな香り付けるから選んで」って言ったのをふいに思い出した。あれってステキな話じゃなくて怖いことだった⁉︎なんて余計なことを今更思ったりもした。生き辛い朔、過去に囚われる一香、会うべくして出会った二人をつなぐ一輪の薔薇。手の込んだ美味しそうな食べ物。森。読みながら刺激されるのは脳内の映像だけではなくて、想像しきれないいくつもの香り。千早さんのこういうの好き。
2020/09/02
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