掌に眠る舞台
掌に眠る舞台 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
8つの短篇からなる作品集。表題は全体を統べるもの。この8篇を繋ぐキー・コードは「舞台」(劇場性)である。「ダブルフォルトの予言」や「花柄さん」のようなダイレクトなものばかりではなく、いずれもが多かれ少なかれ「舞台」が描かれる。そして、もう一つ隠されたコードは、そこに死の影が揺曳することである。どの作品も陰影を背負って暗さを表象するのも、そのために他ならない。それは生と交錯するのではなく、まさに「紛れ込む」ように忍び寄るのである。
2023/10/31
starbro
小川 洋子は、新作中心に読んでいる作家です。最新作は、小川 洋子ワールド、舞台に纏わる幻想譚の短編集、オススメは、『指紋のついた羽』&『鍾乳洞の恋』&『無限ヤモリ』です。 https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/tenohiraninemurubutai/
2022/09/27
けんとまん1007
物語の中で、人が動き、音がする。それにも関わらず、感じとるのは静寂の世界。人の体温も感じ取れないような世界。心を研ぎ澄ませながら、頁をめくる体験。人は、どこか夢見心地の時間帯があると思う。ポカっと空いた、時間的な隙間にある世界。自分の心の中を、覗き込まれるようでもある。
2022/11/13
みっちゃん
舞台、という閉ざされた空間の中で現実と異世界、はたまた妄想?が入れ替わり、溶け合う。静かにひっそりと、がどこか得体の知れない世界の入口がそこにはある。慎ましく目立たぬ暮らしぶりの中で、細心の注意を払って手際よく繰り返されるその作業。がその拘りの強さ故に、なかなか周囲には理解されないであろう登場人物たち。でもそのひたむきさと清らかさは、一心に神に祈りを捧げる孤高の聖人たちに似ている。
2022/12/05
ちょろこ
溢れだす一冊。ページを開いた途端、小川さんの世界がこぼれんばかりに溢れだす。思わずもれる吐息。誰もが気に留めないようなひとかけらを丁寧に掬いとって紡がれていく世界は、一滴のしずくが波紋を広げるように心に押し寄せてきた。ささやかな幸せと共に舞台という自分の小さな世界を慈しみ生きる人たち。それは奇異かもしれないけれど読み手というただ独りの観客の心を魅了していく。美しい言葉と言葉の幕間。そこに垣間見えるそこはかとない哀しみ。手からこぼれおちるような束の間の淋しさと儚さが心を伝う時間。それはまさに陶酔の時間。
2022/10/09
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