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さくら (小学館文庫)

さくら (小学館文庫)

さくら (小学館文庫)

作家
西加奈子
出版社
小学館
発売日
2007-12-04
ISBN
9784094082272
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「さくら (小学館文庫)」のおすすめレビュー

家族でも分かり合えない。分かり合えなくても、愛する。西加奈子が描く「偽りのない家族」の物語『さくら』

『さくら』(西加奈子/小学館)

“僕の手には今、一枚の広告がある。 色の褪せたバナナの、陰鬱な黄色。折りたたみ自転車の、なんだか胡散臭いブルー。そして何かの肉の、その嫌らしい赤と、脂肪の濁った白。”

 西加奈子氏による小説『さくら』(小学館)を読みはじめた時、冒頭の表現にガツンとやられた。著者ならではの持ち味である独特の色彩感覚と多彩な情景描写は、デビュー初期の本書においても遺憾なく発揮されている。

 冒頭に登場する「広告」の裏にしたためられた短い手紙が、この物語の起点となる。

“「年末、家に帰ります。 おとうさん」”

 本書の主人公である長谷川薫の父は、ある日突如失踪して以来、音信不通だった。そんな父からの手紙を読み、薫は実家への帰省を決意する。父と母、兄ちゃんと妹のミキ、そして犬のサクラ。3人兄弟の真ん中に生まれた薫の視点と回想を通して、5人と1匹の家族の物語が紡がれる。

 誰からも愛される人気者の兄ちゃん、平凡で穏やかな性格の薫、気性の激しいミキ。愛し合う父と母のもと、すくすくと育つ彼らの幼少期の描写は、平和な香りで満ちている。中でも、幼いミキに対…

2023/4/4

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西加奈子の出世作『さくら』――兄の事故、家庭崩壊…神様からの「打てないボール」に苦しめられた家族の、再生の奇跡

『さくら』(西加奈子/小学館)

 西加奈子さんを一躍有名にした出世作『さくら』(西加奈子/小学館)。壊れた家族と愛犬「サクラ」の物語は、今もなお、読み継がれている感動のロングセラーである。

 大学生の「僕」は、とある手紙を見ている。「年末、家に帰ります。おとうさん」。この文章に、「僕」はとてつもなく驚く。父親は、数年もの間、音信不通になっていたからだ。その父親が帰ってくる。……進学と共に一人暮らしをしていた「僕」は、実家に戻った。 それは、「最愛の兄の死」をきっかけに、壊れ、止まっていた家族の時間が再び動き出す、始まりの一歩だった。そのきっかけとなったのは、年老いた愛犬「サクラ」である。

 関西のとある新興住宅で暮らしていた「僕」は、兄と妹、そして両親の5人暮らしだった。母親はちょっとおしゃべりで明るい美人。父親は物静かで温厚で、優しい。2人は心の底から愛し合う素晴らしい夫婦。

 兄の一(はじめ)は優しくハンサムで背も高く、いつでもクラスの人気者。妹のミキは愛らしい顔とは裏腹に、クールで一匹オオカミタイプ。それでも、どこか人の心の機微に聡いところがあっ…

2017/10/9

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「なんて雰囲気のある3人」 西加奈子の小説『さくら』が北村匠海&小松菜奈&吉沢亮の出演で映画化!

『さくら』(西加奈子/小学館)

 西加奈子の小説『さくら』が、北村匠海、小松菜奈、吉沢亮の出演で映画化されることが決定。3人が兄弟役を演じるとあって、「なんて雰囲気のある3人なんだろう」「大好きな物語がステキなキャストで映画になるなんて嬉しい!」と注目を集めている。

 同作は、西が2005年に発表した小説。ある家庭に生まれた長男・次男・長女の3兄弟と、“さくら”と名付けられた1匹の犬が織りなす物語だ。長男の一は家族の中でもヒーローのような存在だったが、ある事故をきっかけに死亡。それ以来、長女のミキは引きこもりがちになり、母も暴飲暴食に明け暮れる。次男の薫は実家を離れ、東京の大学へ。3兄弟と共に生きてきた老犬のさくらは、変わってしまった家族に寄り添い続ける――。

 兄弟と犬が繰り広げる家族の物語は、「すこし変わっているけど、間違いなく家族愛のお話」「自分も犬を飼っているからさくらが愛しく思えた」「読み終わった後に自分の家族を想って泣いてしまう」と感動の声が続出。単行本は26万部超えのベストセラーを記録し、2007年には文庫版も発売された。

 映画では一…

2019/4/13

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さくら (小学館文庫) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

本書は西加奈子さんの第2作目にあたるらしい。文体は、まだ多分にアマチュアっぽいところがあるのだが、おそらくはそれをカヴァーするためもあって、22歳の「僕」の一人称語りになっている。万事に華やかなお兄ちゃんと、超絶美人の妹にはさまれた地味で目立たない「僕」の設定はなかなかに巧みだ。当時、西加奈子さんは弱冠28歳だったのだが、男性の生理をよくわかっていることにも驚く。また、「いつか、いつか、お父さんとお母さんに、嘘をつくときがくる」というサキコさんのセリフも、唸るくらい見事に的を射ているのである。

2019/01/13

ちょこまーぶる

まずは全くの勘違いをしていた。「さくら」という本題から勝手に桜だと思っていて、春になったら読むためにずっと積読本にしてしまっていた。背表紙に老犬の名前である事が書かれていた。家族の明と暗を描いた作品であるが、暗があるから家族は明になる事が出来るし、そしてお互いに認め合いながら前に進んで行くことの大切さを改めて教えさせられる思いがした作品でした。それにしても、文章が素晴らしくて、柔らかく、そして比喩表現の情景が眼前に浮かび上がるような文章でした。で、もっとも好きな文章は老犬サクラのしゃべり文に癒されました。

2014/03/25

風眠

ひとつの物語にいろいろな要素を詰め込みすぎていて、浅く広くという印象なのが残念。事故、死、愛、嘘、広汎性発達障害、摂食障害、アルコール依存、性、暴力・・・どれかひとつを柱として描き、物語に深みをもたせてもよかったのかもしれないな、と思った。弱者を安易に扱うかんじも、私は好きじゃない。救いは、家族が当たり前のように幸せだった頃のことが長く丁寧に書かれていたこと。ふんわりと温かい。そして兄の死後、妹の美貴がずっとため込んでいた感情を爆発させるシーンへと続くクライマックスに胸がつまる。幸せの描写が心に響く物語。

2012/12/11

鉄之助

妙に心に響く、フレーズがたまらない。「この世にあるものは、全部誰かのもので、全部誰かのものでもない」。キリン公園で出会ったおじいさんの言葉だ。目が見えなくて、「星の形は見えんでも、光は感じることができる」と言う。「わしのこの目ぇはな、わしのもんやけど、わしのもんや無い。神様に返すんや」とも。この物語を読むと、つくづく「永遠なんてものは無い」と感じた。しかし、家族の愛は、確かにそこに在った。

2022/12/18

hit4papa

美男・美女の両親、兄、妹。背だけは高い次男の主人公を入れた五人家族+犬のさくらの日々が描かれた作品です。主人公が帰省すると、家庭は、居心地が悪そうな父、美女のおもかげがななくなった母、死んでしまった兄、冷めきった妹、具合の悪いさくらで不穏な雰囲気。物語は、そこから家族とその周辺の過去を反芻し、現在へと繋がります。あまりに残酷な出来事に乱れる家族の絆。終盤に語られるエピソードに胸が締めつけられることでしょう。ラストは、ホロリときてしまいます。著者の初期の作品ですが、言い回しがちょっとくどいかもしれませんね。

2019/07/30

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