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名残の花 (新潮文庫 さ 96-1)

名残の花 (新潮文庫 さ 96-1)

名残の花 (新潮文庫 さ 96-1)

作家
澤田瞳子
出版社
新潮社
発売日
2022-09-28
ISBN
9784101042817
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名残の花 (新潮文庫 さ 96-1) / 感想・レビュー

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エドワード

鳥居耀蔵といえば、天保の改革での取締りで<妖怪>と恐れられた男。失脚した彼が丸亀から戻った、東京と名を変えた江戸の街は、著しく変貌していた。明治5年。隠居して鳥居胖庵を名乗る彼が見聞する、江戸の名残り。能楽から導かれた美しい章題と逸話の数々が心にしみる。大名の庇護で栄えていた能楽の家は、維新後、窮乏を極める。新政府に出仕する者、農商へ移る者、滅びの美を舞う能楽師たちがみつめる江戸の終焉こそあはれなれ。桟敷ごとに銭を取って能を見せる能楽師たちを、前代未聞の珍事と言うなかれ。その道が今日につながるのだ。

2022/10/21

niisun

明治維新に翻弄された人々を描いた作品。以前、読んだ浅田次郎の『五郎治殿御始末』では、職を追われた無名の武士達だったが、今回の元南町奉行“鳥居耀蔵”、能の地謡方“の中村平蔵”とその弟子という組み合わせで、なかなか味わい深かったですね。江戸に取り残された人々の寂寥が表現されていますが、最後に江戸を憎み、西洋からの新しきモノを至上と決めつける輩に、鳥居耀蔵が語った「大樹公の御世とて、元は豊太閤の世の後に打ち立った新しき世であった。ならば今の明治とて、いずれは古び、綻びが生じて参る」という話に尽きますね。

2023/04/16

Y.yamabuki

鳥居耀蔵(胖庵)は許され戻ってみると江戸はすっかり姿を変え東京になっていた。徳川の世の全てを否定された様で未だ受け入れずにいた。そんな彼が出会ったのは、以前は取り締まりの対象としていた能の役者見習い豊太郎。彼も幕府の庇護を失くした場所で懸命に生きようとしていた。西洋化を急ぐ新政府に否定された能と武士。全てを変えてしまって良いのか?一話毎に起こる出来事に関わっていく内に、この対照的な二人が心を通じ合わせて行く。「秋萩の散る」や今作の様な短編も魅力的。

2023/01/12

earlybird_kyoto

主人公は北町奉行・遠山の金さんの時代に実在した南町奉行・鳥居耀蔵(胖庵)。失脚し二十年の牢獄暮らしの後、明治になって東京(江戸)に戻ってからの話です。幕府お抱えだった能役者たちも貧窮する中、「江戸に置き去りにされた」彼らがそれでも己の志を胸に生きる姿がとてもいいです。旧弊のものを嫌い、御一新で今後ますます国が富むと主張する登場人物に、「国が富み栄えて、それで何になります」と問う若き能役者・豊太郎。経済成長を追い求める風潮の中、静かに読みたい作品です。

2023/01/22

陽ちゃん

明治に入って5年、失脚から二十余年もの間幽閉されていた鳥居耀蔵は目にした「東京」となった江戸の姿に愕然としますが…。偶然知り合った若手能役者の豊太郎とその師匠の中村平蔵との交流の中で、これまでの彼なら見向きもしなかっただろう、民の新しい世の中で生きようとする姿を目の当たりにして思わず手を差し伸べる姿に、かつて『「妖怪」と呼ばれるに至った所業も、民への嫌がらせではなく、本心からそれが正しいと思っていたのだと実感しました。きっと世渡りが下手だったのでしょうね。

2022/11/20

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