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夏の闇 (新潮文庫)

夏の闇 (新潮文庫)

夏の闇 (新潮文庫)

作家
開高健
出版社
新潮社
発売日
1983-05-01
ISBN
9784101128108
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ジャンル

夏の闇 (新潮文庫) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

小説の舞台は東西統合前のボンだろうか。それにしては熱帯アジア的な気怠さに包まれている。なにより語り手の男が終始、怠惰と倦怠にどっぷりと浸かったままである。彼は作家その人と重なり合うように見えるが、おそらく開高健自身はより行動的だろう。主人公は作家を自称するが、末期の様相を呈してきたヴェトナム戦争を尻目に、終日寝てばかりいる。情動が動くのはパイク釣りの場面くらいか。アヘンにまで手を染めるほどであるから。物語は一貫して行き着くところのない内的な焦燥のうちに、いたって小説的な完結を迎える。

2020/02/06

ehirano1

完全に読み込めずも体感は出来たような気がします。全体的になんとも心苦しい小説でした。おそらく、”当方も過去に部分的に同様の心境にあったから”、ということに読中に気付いたからです。特にp149の「・・あとどうするんだ」は今になっても女同様にコタエました。 別枠では、「白いページ①、②」でも出てきた「何かを得るためには何かを捨てなきゃならない」は著者の哲学であると確信しました(きっと他の著作でも出て来るのでしょう)。

2016/01/06

ehirano1

気になった多数の箇所に線を引きながら再読。「全体はいつも細部にあらかじめ投影されてある。いつもそのことを私たちは忘れてしまう。そのため、全体に熱狂してやがて細部に復讐され、細部に執して全体に粉砕されてしまうのだ(P231)」・・・当方には難解、まるで小林秀雄の文章のようです・・・・・しばらく寝かせよう・・・・・。

2016/01/06

奥澤啓

開高健の文学的営為は『夏の闇』を頂点とする。開高の生涯を概観すると、ベトナムでの戦争体験や釣りへの没頭という外面的側面と、自己の内部に沈潜していく内面的側面があることに気づく。『夏の闇』は後者の系列の作品だ。男と女が十年ぶりにパリとおぼしき街で再会しひと夏をともに過ごす。開高の分身といっていいであろう主人公は、ひたすら性に惑溺し、食に没頭し、睡眠を貪る。すべての言葉が、そこにあるように、なければならないように、そこに、ある。すべての言葉が重い。(続く)

2015/06/06

奥澤啓

(続き)生涯を友としてすごした文藝評論家の向井敏は、開高の文章を「臓器感覚の文章」と評した。よく知られているように、この作品に先行する『輝ける闇』と『夏の闇』とあわせて「闇三部作」を完成させることが、開高の後半生の課題であった。三作目は『花終る闇』として死後発表された。生前に完成することはなかった。しかし、『夏の闇』からほどなくして死後発表されたものは書きあげられていたのである。完成は断念したのであろうと私は考えている。そして行動のエネルギーのベクトルが釣りに向かった。おそらくこの想像はあたっている。

2015/06/06

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