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父と暮せば (新潮文庫)

父と暮せば (新潮文庫)

父と暮せば (新潮文庫)

作家
井上ひさし
出版社
新潮社
発売日
2001-01-30
ISBN
9784101168289
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父と暮せば (新潮文庫) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

被爆から72年、作品の初演からは23年、そして井上ひさし氏が亡くなられて7年。それぞれに時期はずれたが、様々な追悼の意を込めて再読。きわめてわかりやすいお芝居なのだが、しみじみとうったえかけてくる静かな余韻はこの作品に固有のものだ。広島方言で語られるセリフの一つ一つは、実に味わい深く、また時には軽妙なタッチを微細に伝えてくる。もっとも、フランス語によるフランス公演でも大きな感動をよんだそうだから、方言の力を超えるものがあるのだろう。そうはいっても日本語でこのお芝居を見たり読んだりできる我々は幸せである。

2017/08/28

yoshida

井上ひさし氏の戯曲。この作品を読めて良かった。昭和23年の廣島。市民への原爆投下から3年。傷痕が残る廣島。生存した人々は懸命に毎日を生きる。そして彼等は自分を責め続ける。なぜ自分が生き残ったのか。大切な誰かを見殺しにしてしまった。幸せの仄かな灯りが見えても、自分でその灯りから遠ざかる。自分は幸せになってはいけないという意識。奇跡的に生き残った人々を縛る心。その何と哀しいことか。伝わる原爆の悲惨さ。軍も市民も老若男女も無差別に殺害し、放射線により長い苦しみを与える悪魔の兵器。核兵器は廃絶しなければならない。

2018/07/01

ヴェネツィア

演劇は見たことがあるのだが、今回あらためて原作の戯曲を読んだ。読了した今、しみじみとした感動と余韻に浸ることになった。舞台には2人しか登場しないし派手さもないのだが、この2人の内面の葛藤が見事に演劇空間を作り上げていくのである。作者自身の「あとがき」によれば、主人公の美津江が「いましめる娘」を、そして父の竹造が「願う娘」を表象するというのだが、そうとばかりも言えないように思う。なぜなら、娘の美津江自身の中に大きな葛藤があることこそが、この劇のドラマトゥルギーを構成しているからだ。ほんとうに素晴らしい戯曲。

2012/12/07

buchipanda3

昭和23年の夏、あれから三年後の広島を舞台にした戯曲。父と娘の会話という簡潔な舞台劇ながら、そこで披露される計り知れない哀しみと切なさに打ち震えた。そして死と共にある生というものの尊さに深く感じ入った。読み始めるとすぐにあることに気付く。そしてそれが為されている意味を察することで、その境遇に置かれた美津江の心の傷の深さを知ることになる。相反する気持ちに揺らぐ姿へのやるせなさに言葉に詰まった。それでも方言で綴られる父娘の情愛に満ちたやり取りでほんのりと癒やされる。そして最後の台詞がいつまでも胸に響いていた。

2020/07/23

chimako

井上ひさしの脚本である。広島の原爆で死んでしまった父親が娘のところに帰ってくる。娘は「こげんど拍子もない話があってええんじゃろうか」と思いつつも父との暮らしを楽しんでいる。図書館に勤める娘に思い人が出来たらしい。父親は娘の幸せを願うが娘は幸せになることを拒む。その理由が明かされる終盤は文字を追うことさえ辛くなるような原爆当日の様子が娘 美津江の口で語られる。原爆の温度は12000℃、太陽2つ分。風は音速よりも速い秒速350m。石さえ泡立ち瓦の塗料は溶け風に煽られ針となる。井上ひさしはすごい脚本家である。

2021/09/10

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