岩塩の女王
岩塩の女王 / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
能の幽玄の世界が現実にも具現したような短編集。「無声沙」は声が出せなくても生活できる文筆業の男の物語。馴染み深い名古屋の情景も盛り込まれているので懐かしさすら、覚えます。そして声を出そうと四苦八苦する主人公の姿には、作家としての独特の自負とこだわりを感じます。日常の中に異界性を見出す「ある平衡」が好き。「幻聴譜」は全てが響き合い、閉じ行く不思議な感覚が味わえます。「修那羅」の「魔道に堕ちるとはこういう心地か」と悪夢的な妖艶さと「蝸牛邸」の背徳故に孤独が募るのもまた、絶妙です。
2017/11/15
ちょき
小説なんだが、詩的であり美術作品のようでもあり、一文、一小説を咀嚼しながら読んでみてもなんとなく漠然とした理解になってしまう小説。やっぱり美術作品として鑑賞(読んだ)するのが吉と見た。
2017/10/14
燃えつきた棒
先日、読書メーターで読友さんが「文体論の翻訳書って少ないですねえ」とつぶやいていたのが、ずっと耳に残っていた。 言われて検索してみると、確かにそうだった。 そんなことで、今回は少し文体を意識して読んでみた。/ 「無声抄」、「岩塩の女王」、「修那羅」、「ある平衡」、「幻聴譜」、「蝸牛邸」の六つの短篇からなる小説集だ。 作者には申し訳ないが、僕には作者がいろいろな作家たちの文体模写をしているように思えた。/
2021/08/30
そうたそ
★★★☆☆ なんと六年ぶりの作品集とのこと。恐らく芥川賞受賞作「アサッテの人」以来読んでいない自分にとっては、相当久しぶりに読むこととなる。分かるようで分からない、自分にとっては高尚過ぎるとも思ってしまうかのような作品ばかり。泉鏡花を思わせるような文体のものから、散文詩のような作品まで実に様々。こういう作品はまさに考えるより感じろ!なのだろうか。読んでいて気持ちよくなるほどの実に巧みな言葉の使いようであるのは確か。
2017/09/26
みねたか@
六年ぶりの小説集という。六編の短編、著者自身がバラバラな世界観と文体と言うとおり、作品により好みは分かれる。しかし、それだけ作家としての確かな力量を示すものだとも感じる。一人広大な屋敷に住む娘を描く「蝸牛邸」。庭の蝸牛、入り組んだ部屋、鍾乳洞、手術により狭められた耳道。幾重もの舞台装置に、しっとりとした文体、いつしか現実と幻想の境界が溶けてゆくような感覚、やはりこの人の書く文章は魅力的だ。
2018/03/03
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