物語が、始まる (中公文庫 か 57-1)
物語が、始まる (中公文庫 か 57-1) / 感想・レビュー
naoっぴ
想像力豊かでへんてこな話の短編集。へんてこでシュールなんだけど面白い。言葉の選びかたや会話のリズムが楽しい。男の雛型と恋をしたりトカゲを巨大化させたり、謎の穴に入ってみたり、はたまた死んだ父母に憑かれたり。読んでいると頭が粘土みたくこねくりまわされて柔らかくなる感じ。もう何が来ても驚かない。なんというか、細かいことなんてどうでもよくなるパワーを感じます。ストレスも彼方へぶっ飛びました(笑)
2017/06/28
クプクプ
久しぶりに川上ワールドを堪能しました。1996年の作品。短編「物語が、始まる」は女性の主人公が公園の砂場で男性の雛型を拾った川上さんの少しイケない性欲と寂しさの話。「婆」は嵐が来て雨が降り季節が変るという自然と文化の表現が鮮やかでした。「墓を探す」は林道を探すのがテーマでなかなか林道にたどり着けない不思議な話でした。私が川上弘美さんを読むのは実に久しぶりでしたが、独特のリズムがあって読みやすいような読みにくいような不思議な感覚でした。川上弘美さんらしい作品なのでしょう。
2021/02/06
眠る山猫屋
穂村弘さんの解説(?)に激しく同意。冒頭から何故か同じ過ちを・・・。拾った雛型との生活を通して、深く自分と向き合い、自分に眠る恋愛感情に触れる表題作。謎のお婆さんとの交流『婆』も好きだ。招かれた婆が主人公を導くように見えて、婆はきっかけに過ぎない。変わるのではなく、見つめ直し気づく、そう感じた。ちょいと幻想的な流れが心地好い。季節の変り目が身近にあった。『墓を探す』の先祖の墓を探す姉妹の話も良かった。見ず知らずの田舎を訪れさ迷う姉妹。次第に幽世とのあわいに踏み込んでいく過程が・・・可笑しくも怖い。
2021/06/01
masa
「物語が始まる」のではない。「物語が、始まる」のである。この一拍「、」の余白こそが川上弘美文学の真骨頂とか、わかった風を装って語ってみたくもなる極上のウソバナシたち。前世紀生まれであるはずの物語は新鮮に僕を撃ち抜いて、次の世紀でも驚きをもって受け入れられるだろうことを確信させる。桃太郎やシンデレラやドラえもんがそうであるように、時代が変わっても決して色褪せることのない本物のフィクション。一流のデビュー作に特有な濃縮された初期衝動の詰め合わせ。溺レるもセンセイの鞄も、ここから川上弘美の物語が、始まったのだ。
2022/11/05
Miyoshi Hirotaka
「雛形を手に入れた」という冒頭の一文でいきなり異世界に引き込まれる。言葉を教え、栄養を与えているうちに成長し、心の中まで学習する人形との生活。外と内の世界がつながり、人間関係の雛形として機能するが、雛形にも寿命があり、雛形との生活は突然終わる。それは、ドラえもんがフリーズするようなもの。自分の気持ちを素直に言えずに後悔することがある。時を経てぶり返し、気持ちが苛まれる。雛形でシミュレーションできたらいいだろうが、それはやはり夢。傷つきながらも気持ちを素直に言葉にして相手に伝えてこそ、自分の物語が始まる。
2015/01/21
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