怠惰の美徳 (中公文庫)
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「怠惰の美徳 (中公文庫)」のおすすめレビュー
「一日十二時間は眠りたい」人生を徹底して怠けた結果…
『怠惰の美徳』(梅崎春生/中央公論新社)
私はニートであったことはないが、現在に至るまでに合算半年ほどの失業期間と、何度かの倦怠期を経験している。失業期間がニートに属さないのは、わずかな家事と就労に向けての準備だけは怠っていなかったのが理由だ。しかし、やるべきことはあるのだが、何となくやる気が起こらない、怠けてしまったという経験は、結構な年齢になってからもある。
私の場合、怠けてしまったあとは猛烈に集中する。きついスケジュールで仕事を終えた時の達成感がたまらないのだ。仕事Mだと自称している。追い込むことによる集中力の凄まじさは、加圧トレーニングに近いものだろうか。ちょっと違うかもしれないけど。内容はやや異なるが、『怠惰の美徳』(梅崎春生/中央公論新社)を読むと、自分にも該当することが多く、妙な親近感を持った。
梅崎春生氏は、1965年に他界した作家である。もう、半世紀以上前に亡くなった人物だ。『怠惰の美徳』は、梅崎氏の私生活や思考を綴った短編やエッセイをまとめた本で、いわば、梅崎氏の人物像が丸わかりできる一冊である。よっぽど好きな作家でもなけれ…
2018/6/16
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怠惰の美徳 (中公文庫) / 感想・レビュー
kinkin
まず表紙の絵がこの本を語っている。いい絵だと思う。怠惰、世間一般では怠け者、だらしない、やる気がないそんなとらわれ方をする言葉で評判はよろしくない。著者は戦後から昭和30年代にかけてそんなことをエッセイとして仕立てた。生き物から怠惰のヒントや答えを得たり、戦後の子供たちを気の毒がったり他怠け者称賛の作品が続く。ぼんやりしていると意外とおもしろいことの気づいたりするものだ。うっかりしているとそんなことも通り過ぎてゆく。ぼんやりもこれで結構大変なものだ。怠惰も同じく大変なことだと思う。いい作家に巡り合った。
2021/10/09
アナーキー靴下
お気に入りの方が紹介していた梅崎春生作品が面白く、何冊か読みたいと思いつつ、まずは図書館にあったこの本から。随筆と短篇小説ということだが、その境目を見極めるのが難しい。随筆は、屁理屈だって立派な理屈、といった、鋭いのかナマクラなのかわからない面白さ。ネットスラングの「低みの見物」という言葉が浮かぶ。とはいえ貧富差や地位的低さではなく、地に足ついた位置から、理想論者の絵空事を眺めている感じ。皮肉屋だけど世を拗ねたところがないのが良い。地に足どころか蒲団にもぐり込んで地面にべったり寝そべっているからだろうか。
2021/08/10
厩戸皇子そっくりおじさん・寺
梅崎春生、初めて読んだ。この本、本が好きな人なら、読んで損したと思う人はたぶんいない筈だ。読み進めるのが楽しかった。表紙のタコからして何とも言えず良い。編者の荻原魚雷の手柄でもあろう。楽しい梅崎春生入門である。前半はエッセイ、後半は7篇の短篇(とは言うものの、私小説なのでエッセイの延長的内容)。ノホホンとした気分を貰いながらも、戦後間もなく書かれたエッセイは、梅崎春生版『堕落論』的な味わいもある。結構辛辣に人を見ているのだが、柔らかいとぼけたユーモアに上手くくるんでいる。小説の方も面白いとしか言えない。
2018/10/11
藤月はな(灯れ松明の火)
タイム・パフォーマンス、コスト・パフォーマンスが重要視される昨今の逆風を歩むようなエッセー集。怠け者の真髄ここにあり!個人的に作者の転居癖に心惹かれる。何故なら、一定の場所に長く、居座るとだんだん、地金が出てしまい、人に勝手にガッカリされたりする度におさらばしたくなる私にとって即、転居に移れる行動力が羨ましくて仕方ないのだ!また、邪魔になったから猫を捨てる、花火嫌いな犬を閉じ込めた上で鼠花火を嗾け、躾けるなど、今の時代だったら動物虐待である。ですが、ご安心を!ちゃんと作者には天罰が下りましたから!
2023/09/10
syaori
仕事をさぼって酒屋に並んでいた会社員時代の思い出から戦後の世相への問題提起まで、幅の広いエッセイ集。仕事が差し迫ってくると怠け出す怠け癖、酔っぱらって自分の財布のお金を隠してしまう困った酒癖についてなどと共に当時の文学者の欺瞞や「熱情を徒労」していた時代の鬱屈や嫌悪が語られたりするのですが、全体としてとぼけたおかしみが感じられるのは、本人も言うように「つぼを外して書いている」からなのかもしれません。閉塞感を痛いほど感じるのにそんなおかしな余裕のようなものを感じる『一時期』『飯塚酒場』『防波堤』などが好き。
2018/11/30
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