華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-7)
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「華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-7)」のおすすめレビュー
本好きでなくても文句なく感動! 大火災で蔵書110万冊が焼けた図書館の復活ドキュメント
『炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火』(スーザン・オーリアン:著、羽田詩津子:訳/早川書房)
“いらない本や、すっかりくたびれてもう読めないほど傷んだ本でも手放せなかった。捨てようと思って積み上げておいても、いざ捨てようとするとできないのだ。人にあげるか、寄付できればよかったが、どんなに努力してもゴミ箱に本を捨てることはできなかった”
この文章に少なからず共感できる人ならば、『炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火』(スーザン・オーリアン:著、羽田詩津子:訳/早川書房)を興味深く読むことができるだろう。あるいは、
“わたしは図書館で大きくなった。というか、少なくともそういう気がしている”
という文章に共感できる人も、本書をおもしろく読めるはずだ。
この本は、1986年4月29日に発生し、蔵書40万冊が焼け、70万冊が損傷した「ロサンゼルス中央図書館の大火災」という、本好きだとしても日本人にはあまりなじみのなかった事件を扱ったものだ。今までこの事件を知らなかったとしても、本書には著者の、本と図書館という施設への愛が全編を通して横溢しており、そこに…
2019/11/29
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華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-7) / 感想・レビュー
パトラッシュ
『1984年』の主人公は歴史記録の改竄が仕事だが、『華氏451度』では本を焼く。「偉大な兄弟」と党の怖さに比べ、こちらは政治体制が描写されていない。英国的な階級支配とアメリカ的反知性主義の差かもしれないが、どちらで描かれた世界も国民を強権支配する中国やロシア、北朝鮮と、国民を分断して寛容さを失わせようとするトランプ流政治という形で21世紀世界に現出している。数年違いで現れた両作は国際政治のおぞましさと容易に流されやすい人間性の弱さを容赦なく描き出す。優れた文学作品は決して古びないという見本を示してくれる。
遥かなる想い
本を焼く男モンターグの 心の動きが印象に残る。 1953年に書かれた本書は アメリカで吹き荒れた 反共産主義運動マッカーシズム に抗議して書かれたそうである。 都合の悪い本を禁ずると いう悪施策は、本という 知の集約を人々から 遠ざけることになる、 という真実を、近未来の 世界という形で著者は 上手に描いている。
2015/10/03
ソルティ
比喩表現が多く文章もしつこく回りくどいが、先が気になる展開で読み進むけど進まない。1953年発行時はSFだったろうが、今時代が追いつき、でもテレビラジオではなく今はスマホが思考停止の要因と危惧されれば、この世界は永遠に続く⋯もはやホラー。ただこの話、「本を読まないことが全ての元凶」というのは短絡的過ぎないか。本もそれだけに没頭すれば思考停止となる。広い視野とそれぞれの長所短所をわかった上で楽しもう、と思う。「「(略)昨夜わたしが月の話をしたら、あなたは月を見たわ。ほかの人たちは決して見ないの。(略)」」
2021/02/11
青乃108号
昇火士モンターグは通報を受け、火竜に乗って現場に急行し隠された書物を、一切の書物を大量のケロシン噴射によって家まるごと、時には住人も一緒に焼き尽くす。人は本を読まず白痴のようにただ、三面壁スクリーンの映像を家族とし、怠惰とスピードに身をやつしている。そんなディストピアで一人反旗を掲げたモンターグ。自分の家を焼き仲間を焼き殺し反逆者としとて追われる事に。たたみかける展開と後半の疾走感にドキドキが止まらない。時代を感じさせない世界観に衝撃を受けた。もっと若い頃に読めていたら、俺の人生も変わっていた事だろうに。
2022/02/04
アルビレオ@海峡の街
やっぱりブラッドベリは苦手だ。詩的な文章が特に。でも何故か彼の本を手にとってしまう。読書が禁止されメディアによって情報が支配される世界は、私たち本が好きな者からすれば実に恐ろしい未来の姿である。現在でも書籍や音楽、映像がどんどんデータ化され、手に触れる事のできない不確かなモノに変わりつつある。便利さと引き換えに何かを失ってはいないか、考えさせられる作品。
2016/10/26
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