逆まわりの世界〔改訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-41)
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逆まわりの世界〔改訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-41) / 感想・レビュー
ソフィア
大した説明もなく、いきなりホバート位相だのソウガムだの市民特殊図書館だのという意味不明な概念が連発する上、1960年代の価値観の随所に近未来的要素が加えられた奇妙な世界観はさすがフィリップ・K・ディックです。一方、設定さえ慣れれば、ディック作品の中では読みやすく面白い部類に入るかと思います。時間が逆行していることから、食物を吐き出したり、男性が髭剃りでなくて髭植えをするのがツボでした。ハゲは存在しない世界なのでしょうかね?
2023/08/30
kurupira
時間逆流現象の定義の曖昧さを感じたが設定としては面白い、ディックの宗教や哲学が絡む作品としてはかなり読みやすかった。死者が墓から蘇ることからキリストとの接点を感じるが、蘇った宗教家は神に触れた近づくが、登場人物や群がる一般人の視点、更には読者視点では理解不能なのか、逆に何とか感じさせたいのか。神とは理解不能で別次元の存在、それでも人間は何かにすがるか、人生で仕事に埋没する必要があるのか、ラストは虚しさを感じた。(時間逆流という事でTENETサントラを聴きながら読み終えた、SFに合うアルバムだな)
2020/10/05
ふみふみ
時間の逆転現象により死者は墓場から蘇り、生者は若返ってやがて子宮へと還っていく。この世界に神学論が絡みあってディックの数ある作品の中でも一二を争うクレージー度ではないでしょうか。物語は蘇ったカルト教の創始者を巡って、彼を墓から掘り起こした主人公と、消去局、カルト教の現指導者、ローマ教会が三つ巴で争うという筋立てでスラスラ読めるんですが、あの名作ユービックにも似た恐怖感、気持ち悪さが残ります。特に閉所恐怖症の人は要注意です。
2020/08/06
Toshiyuki S.
世界では死者が蘇生し、さらに若返り、やがて子宮に還っていく、ホバート位相という現象が生じるようになった。ディックが関心を寄せる宗教・神学的問題を、死者が蘇る世界における生と死という問題から吟味した一篇だといえよう。神学的要素は『ヴァリス』等ほど強くなく、むしろ主人公のセバスチャンとユーディ教、消去局との命がけの対決を楽しむ、ハードボイルドSFとして面白く読むことができた。ドラッグやアンドロイドといったガジェットも出てきて、ディックならではの「目に見えている」現実の不確実さを伝える描写も冴えていた。
2020/10/05
selva
ディックの長編はほとんど二回以上読んでいるがこれは一度しか読んでなかった。たぶん面白いと思わなかったんだろう。改訳の機会にと読み始めたが前半1/3はやはりあまり面白くない。しかし例によって奥さんともめ出してからが俄然面白くなる。もめさせるのはむろん黒髪の美女、つまりいつものディックと同じ話なのだが、今回は四角関係が起こる。そしてラストに向かっての「エントロピーの増大」。めちゃくちゃ感動した。大好きな一編になった。
2020/08/29
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